Hermit短編

□ふたりとひとり
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従業員口を抜けると、ゆるやかに下っていく道の先にふたつの人影が見えた。公道に出る一歩手前のゲート脇で、花村くんと小西先輩が立ち話をしている。

「あ!」

と、声を上げたのは私ではない。ぎょっとするほど憎々しげに吐き捨てたその人は、言うが早いか駆けだして、私を追い越し、猛然と坂を下っていく。

あれはたしか三年の――と思ったら、お目当ては同級の先輩ではなく花村くんの方らしい。脇目も振らずに突進していって、遠目でも分かるほどはっきりと食ってかかっている。

そういえば、あの人はさっきロッカーで来月のシフトが気に入らないと息巻いていた。
その不満をぶつけているのだろうか。
もしそうだとしたら八つ当たりもいいところだ。いくら店長の息子だと言っても、花村くん自身は私たちと同じ高校生の、ただのアルバイトに過ぎないのに。

突然の乱入と理不尽にも関わらず、花村くんは何とか宥めようと頑張っているようだ。けれど、相手の勢いは止まらない。そんな様子を見かねてか、小西先輩がふたりの間に割って入った。

その辺にしときなよとでも言うように、まだ言い募っている同級生の肩を叩き、その背を押して出て行こうとする。
ふいに動揺を見せた花村くんが、一歩踏み出しかけたのを、「じゃあね」と動いた先輩の唇がジュネスの敷地に釘付けにする。

微笑んで手を振り、愚痴の聞き役を肩代わりした先輩は、それきり振り返ることもなく遠ざかっていく。それをじっと見送る花村くんと、動くことのできない私。

雪になって降ってきそうな満天の星の下、凍るように冷たい風が頬を切る。
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