Hermit短編

□その日 番外 母と子
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十二月四日 深夜 花村家

「おかえり」
「た、ただいま。マジ? 起きてたの? もうこんな遅いのに」
「何言ってんの、遅いからよ。いくつになったって子供は子供……って、やだ、どちらのお嬢さん?」
「説明はあとで。とりあえず入らして。あとクマって帰って来てる?」
「クマちゃん? まだだけど。一緒じゃなかったの?」
「一緒だったんだけど、バタバタしてる間にどっか行っちまって」
「携帯は? つながらないの?」
「ん。先に帰ったんだと思ってたんだけど」
「そう、それは心配ね……。でもま、お腹空いたら帰ってくるでしょ、あの子なら」
「心配だって言った舌の根も乾かないうちにそれかよ……」



「高校生でも女の子って小さくて可愛いわねえ。うちのでっかいのとは大違い……。それにしてもよく寝てるわ。電池切れました! って感じ。あなたが小さかった頃のこと思い出すわねえ」
「親父は?」
「明日早いから寝かせたわよ。お父さんも心配してたんだからね」
「ごめん」
「いいのよ別に。それより良かったわね、鳴上くんの従姉妹さん。親御さんはどんなに嬉しいでしょうね……」
「やっぱ、そういうもん?」
「当たり前でしょ」
「え、泣いてんの?」
「うるさいわね。涙腺緩いのよ、中年は」



「それで、こちらのお嬢さんは誰なの。もしかして、明妻さん?」
「当たり。なんで分かった?」
「見当つくわよそれくらい。お家近いんじゃなかった?」
「そうそう。だから送ってきたんだけど、相当疲れてたみたいで玄関先で寝始めちゃって。家の人、今日はいないって言うし、ほっとけねーと思って連れてきた」
「あらまあ。確かにこの時間じゃ他所にってわけにもいかないだろうけど。あなた、ご両親に八つ裂きにされるくらいの覚悟はしときなさいね」
「わ、わかってるよ……。でもいざって時にはフォローくらいしてくれんだろ?」
「まあ、あなたが間違いを起こさなければ?」
「起こすかよ! 息子のこともうちょっと信用して!」
「もちろん信じてるけど、魔がさすことだってあるでしょう? あなたにも、彼女にもね」
「ぐ……」
「付き合ってるの?」
「いや」
「好き?」
「……今はいいだろ、そういうのは」
「あなた分かってる? それもう好きだって言ってるようなものよ」
「はあーっ?!」
「へえー、ついにねえ」
「ニヤニヤすんなよー。くそー」



「さ、彼女お着替えさせた方がいいだろうから、あなた一旦出なさい。服は私の……」
「俺の! 俺のにして。スウェット持ってくるから!」
「――かわいい彼女にオカンの服は着せたくないと」
「いっ、いちいち何なんだよもう、ほっとけよ!」
「そうでもないと見せかけて独占欲が強いとこ、お父さんに似たわねえ」
「ハーッ?! 何言い出してんの?!」
「はいはい、いーから。早く服持っていらっしゃい。あ、あれでしょ? どうせ寝かすのも俺の部屋でーとか言うんでしょ? いかがわしいものとかしっかり片付けときなさいよ」
「ねーよ!! こないだ燃やされたので全部ですうー」
「あらそーお? それならいいんだけどー」
「だから信じて! あなたの息子を!」
「そうねえー」
「その目! ってか、いいのかよ、俺の部屋で。絶対リビングにしろって言われるもんだと……」
「あー、いいんじゃないの。リビングにさせたところで夜通し見張ってるつもりもないし、私」
「うわ、でけえあくび」
「うふ。信じてるからねー、陽介」
「怖い。笑顔が怖い」
「明妻さんに指一本でも触れたらどうなるか、分かってるねー」
「分かってるっつの! てかそんな、なんもしねーし!」
「ふーん」
「だからその目!!」
「まあ冗談はさておき」
「え、ちょ、どの部分が冗談?」
「あなたもしっかり休みなさいよ。ひどい顔してるんだから」
「な、なんだよ急に……」
「――いいわね」
「……はい」
「分かったんなら、そら、行った行った」
「へいへいへーい」



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