HERMIT

□HERMIT本編
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「明妻」

ツネと俺の間に和解が成立したところで、鳴上が明妻の前に出た。
察した明妻は姿勢を正し、俺たち特捜隊のリーダーの前に立つ。

「俺たちに、力を貸してくれないか」
「うん。もちろんそのつもりです」
「うっひょー! ヨロシクマー、キョーチャン!」

クマを皮切りに仲間が口々に明妻を歓迎する。だいぶ気恥ずかしそうにしながら、明妻は折り目正しく頭を下げた。

「ふつつか者ですが」
「ふつつか!!」
「あー、雪子ってばもー」

ふつつかの何がツボだったのか(語感?)、毎度のごとく突然始まった天城の爆笑に明妻が目を丸くしている。その肩を叩いてフォローの声をかけ、天城の元へと向かった里中が鳴上に聞く。

「今日はこれで解散だよね? 杏子も疲れただろうし」

そうだなと鳴上が頷くと、里中はまだ笑っている天城を立たせて歩き始めた。
あとに続くメンバーの、さらにあとからツネきちと歩き出した明妻を呼び止め、俺は右手をぐっと差し出した。

「あらためて、よろしくな」
「うん」

握った手は、小さくて細くて温かい。

「さっきは、怒ってくれてありがとう」
「ああ、いや……。最後にまた格好悪いとこ見せちまったな」
「そんなことない。花村くんは、いつでも格好いいよ」

さらりと言われて驚いて見ると、明妻はリンゴみたいに真っ赤な頬をしていた。俺の視線にまごついて俯くその気持ちに対して、今の俺はイエスもノーも言えない。

だから俺は明日から……いや、今からでも、明妻のことをもっと知ろうと思った――っていうか、知らなきゃいけないと思った。
明妻の「いつか」が来た時に、答えを持っていない自分ではいたくない。

事件以外の何かを真剣に考えようと思うのは、あの日以来初めてかも知れない。そう思いながら、じゃれるツネきちと楽しそうに歩く明妻の背中を、俺はずっと見つめていた。


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