往復書簡短編
□ゼロ日
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お互いが同じ気持ちのときっていうのは、なんにも言葉にしなくても全部伝わるんだなって、月森くんの腕の中で思う。好きだよ。私も。ずっと一緒にいようね。もちろん。って、重なり合った胸の間を、ふたりの心が行ったり来たりする。
もうこれ以上ないってくらいやりとりをしたあとで、そっと体を離す。合図なんてなくて平気。自然に同じタイミングで、指先にだけつながりを残して、顔を上げれば当たり前に目が合って、一緒に微笑む。
幸せだなあって、きっと、月森くんも感じてる。優しく私の髪に触れた指先から、それが伝わってくる。
少し乱れていた私の髪をすーっと整えながら下りてきた指が、頬に触れた。見た目にはほっそりしているけれど、私よりずっと大きくて、分厚くて、がっしりとした、月森くんそのものみたいな綺麗な手。その手が頬を滑り、くすぐったくて首をすくめた私の顎を捕らえて、上向かせた。
(え、ちょっと待って、これって――)
指先にかかる力と、月森くんの微笑みに、予感が確信に変わる。
「あ、あ、あ、あの、月森くん!?」
「ん?」
「こ、交際ゼロ日で、それはさすがに早くない……?」
思わず言っちゃったら、月森くんはシュンっと寂しそうな顔になった。耳を垂れた子犬みたいな表情に、あっ悪いことしちゃったかな……なんて一瞬罪悪感を覚えたのは、もしかしたら月森くんの思う壺だったのかも知れない。
だって月森くんったら、そのとたんにまたシュッとなって言うんだもん。
「ゼロ日でも、俺はしたい」
「う」
「宮本さんは?」
「え、ええと……」
「したくない?」
だから、そんな目で聞かれて、NOって言えるわけないんだってー。
ていうか、したいかしたくないかって言われたら、私だってしたいよ。展開の早さにちょっとついていけてないだけで、近いうちにって思ってるならいっそ今日だっていいはずって、思ってるよ。でも――。
って、もじもじと考えている私を、月森くんはただじーっと待ってる。いいだろいいだろって迫られたらダメって言えるのに、せっかちさんのくせにこんなときには何も言わないなんて、実は結構いじわるだったりもするの、月森くん。
そうだよって言うみたいに、月森くんがにっこり笑った。
黙ってるのに耐えられなくなって、顔を上げた私の視線を捕まえて。
いい? って続けて聞いてくるそのまなざしに、勝てないなあってつくづく思う。
ややあって、ついに目を閉じた私の唇に、月森くんが限りなく優しいキスをした。ピリリリッてふたりの回路がつながって、一度離れたふたつの心がまたひとつになる。嬉しさと、震えと、大好きの気持ちが行ったり来たりする感情の大洪水の中で、お互いをつなぎ止めるみたいに強く強く抱き合う。
長い長いこれからの私たちの、今日ははじまりの日。
そうとは思えないくらい盛りだくさんの一日だったけど、全部、とっても幸せだった。こんな日がずっと続くといいね。遠く離れていたのはたった一年間だけだったねって、いつか言えるように、ずっと一緒にいようね。
でもね、私、欲張りだから、離れているしかなかった日のことも知りたいんだ。だから――。
「ねえ、約束。おはなし、聞かせて」