Hermit短編
□プリンパ!
3ページ/3ページ
「おー、すごーい!」
雪子が手を叩いて指さす先で、降り注ぐ小銭の雨の中をツネさんが半狂乱で走り回っている。
「テーンタラフーからのー、バラ撒きまくりークマァァァ!」
「ほどほどにしとけよツネー! 正気づいたら襲われっかんなー」
声をかける花村くんは、腕組みで得意げ。
少し高いところに留まってツネさんを見守るジライヤも、同じポーズと表情でいる。目鼻が動かなくてもそう感じられるのが不思議だ。
「マグス系シャドウのバラ撒きは迫力あるな。ナイス、陽介」
「だねー。いやー良かったあ、ホッとしたよ。花村、グッジョブ!」
鳴上くんと千枝の称賛を受けて鼻の下を掻く花村くんが、お前は? と言うようにこちらを見る。
解放された両腕を高くあげ、めいっぱい伸びをしていた私は、その腕をふんわりと下ろしながら小さくお辞儀をした。
「ありがとう、花村くん」
へへへっと照れ笑う声が、とても嬉しそうだ。
「これであれだよな、ツネの中の俺の株も上がるよな!」
「えっ?」
「いや、なんかさー、あいつ俺の扱いだけぞんざいなとこあるだろ? 身に覚えが無さすぎんだけど、気になるじゃん、そーゆーの」
「あー、ごめん……」
「いやいや、なんで明妻が謝んだよ……って、え、あれ、雑な扱いは事実ってこと?」
うきうきと話し始めたはずの花村くんの舌が、だんだんと回転速度を落として、ついにキュッと止まった。
すがるように私を見る目は、くりぬいたように丸い。
「か、解答は差し控え……」
「それ答えちゃってる! 答えになっちゃってるから!!」
チクショーなんでだああと叫んで崩れ落ちる背中を、みんなの笑い声がちょっと無遠慮に、でも優しく包みこむ。
「あの、でも、少なくともランキング最下位は私だから……」
「ランキングう?! そんなもんあんの?! うおお、ツネ様こええー」
「べ、別に嫌ってるとかではなくて、それも愛情っていうか、甘えっていうか……。なんでか花村くんになら何してもいいと思ってる節はあるけど、それは……」
「明妻」
しどろもどろになりながらフォローにならないフォローを重ねる私を、しゃがみこんだ花村くんが手だけで制する。
「わかってる。サンキューな」
大満足のツネさんが駆け戻ってきて、入れ替わりに、他のみんながシャドウを片付けるため駆け出して行った。
(私のランキングは、いつも花村くんが一番だよ)
そう言いたくて、言えなくて。
屈んだまま頬杖ついて仲間を見送る彼の隣に、自分もそっと腰をおろした。