Hermit短編
□スイカズラ
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「ん……」
重なっていた唇が離れ、ふたりの視線が一瞬交わる。
優しいまなざしに微笑み返して、そのまま彼の肩に顔を埋めると、彼もまた私の首元に鼻を寄せた。
つま先立ちの体をギュッと支えてくれる腕のしなやかさと力強さ、そして預け合う互いの重さが心地よい。全てを委ねられる人がいる幸せに、身も心も温かくとけていく。
陽介とは、学校もバイトも同じで、家も近い。だから、一緒にいる時間を作ること自体は難しくない。けれど、こうして互いの体に触れられる機会となると別だ。
稲羽は小さな町だから、どこに行っても人目につく。
ならばと沖奈あたりに遊びに行ってさえ、かなりの確率で知り合いに会う。
さらに足を伸ばすとなると、それはもう小旅行だ。
お互いの部屋が一番気を抜けるけれど、それぞれ家族もいる家に、そうそう入り浸るわけにもいかない。
(それでも、今はまだいい)
会いたい時にはすぐ会える。喧嘩をして気まずい時でさえ、翌日か翌々日には否応なしに顔を合わせることになるくらいだ。でも――。
「なあ。なんか余計なこと考えてんだろ」
「やっ」
首元で囁かれて、くすぐったさに身をよじる。
顔を上げた陽介は、私のそんな反応を喜んでニンマリと笑い、その唇をペロリとなめて再び口を開いた。
「はい、集中」
そのまま食むように口づけられれば、言われるまでもなく夢中になる。
今日の高台は、まるで貸し切りのように他に人影がなかった。それでちょっと開放的な気分になっているのは、どうやら自分だけではなかったようだ。