薄桜鬼

□藤堂くんにおまじないをかける
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「よう、久し振り」


俺は幾日振りかの護衛の為に、城を訪れた。

部屋に入った途端、相変わらず華やかな着物を身に纏った雛姫が駆けて来て、勢い良く俺の懐に飛び込んだ。


「うおっ!」

「平助!!!今まで何をしていた!何故、何の報せも無しに来なかったのだ!」


その声は、一聞いつも通りのようだが、俺には微かに震えているように聞こえた。

だから、俺の胸元に顔を埋める雛姫の頭を優しく撫でてやる。


「悪い…俺、池田屋でヘマしてさ。暫く屯所待機だったんだよ」

「ヘマ、とは……怪我をしたのか?」


上目遣いで首を傾げられ、思わず視線を外す。

いつもは考えらんねぇけど、こいつはたまにこういう………可愛い仕草をする。

その度、俺の心臓は信じられない程早く動くんだ。


「平助」


雛姫は俺の前髪に手を伸ばし、髪で隠れ残っていた傷痕に触れた。


「あんま見んなよ。…格好悪いから」

「平助に格好悪いなどあるわけないだろう」


顔を背けた頬に雛姫の白い手が添えられ、気付くとそのまま背伸びをし、額の傷に口付けられていた。


「雛、姫…!」

「幼い頃、よく母上がしてくれたまじないだ。怪我が早く治るようにと」

「…本当に、早く治るのか?」


疑うような視線を送る俺に、雛姫はむっとした。


「私がまじないをしたんだ!早く治るに決まっているだろう!」

「そうだな。…でもどうせなら、多めにまじないかけてくれよ」

「?多めって……んっ」


俺は、再び無防備に顔を上げた雛姫の唇に自分の唇を落とした。

まじなうように――


「はっ…平助…!」

「これでさっきよりは効果あるかもな」

「い、いきなりではまじないをかけれんではないか!」


唇を離すと、頬を桃色にして雛姫が訴えて来る。

すげぇ可愛い…!

いつもの憎まれ口も、今は俺を煽るだけだ。


「そんじゃ、次はしっかりかけてくれよ?」

「何を…!」


吃驚した雛姫の頬に手を添え、今度はゆっくりと近付いていく。


唇が重なる瞬間、まじないをかけるようにそっと雛姫の瞳が閉じられた。



まじない
それは互いの口付けで





            終

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