薄桜鬼
□藤堂くんに相合い唐傘
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今日は、朝から雨だった。
少し前までは、別に天気など気にはしなかったが最近になって、雨が降れば空を恨めしく眺めるようになった。
だって、平助が濡れるから。
生憎今日は、日中巡察があると言っていた。
この雨の中彼はいるのだろうか。
ふと城下町眺めると、私の思いが通じたのか、丁度視界を浅葱色の集団が歩いていた。
何の雨避けもなく、京の町を歩く集団の先頭には、見間違えるはずがない、一回り小柄な彼。
それだけで、私の体は勝手に動いていた。
バシャッバシャッ
唐傘を手に、はしたなく着物で雨道を走る。
あの浅葱の集団だ。
京の町に詳しくない私だって、彼らを見つけることは容易だろう。
――どうして私は、こんなに必死になっているのだ?
平助が濡れようと、風邪を引こうと知ったことではない。
けど
「雛姫?」
私の足が止まったのは、雨声でも聞き逃すはずがない声がしたから。
「平助!」
「一人で何処行くんだよ。てか、着物泥跳ねてんじゃん!」
「平助の方がずぶ濡れだ!」
私は手を伸ばして、唐傘に平助を入れると、長い髪から水を滴らせる姿が、いつもと違う雰囲気を醸し出していることに気付き、思わず直視してしまった。
「これから様子見に行こうかと思ってたんだ。ま、こんな格好じゃ門前払い食らうのは目に見えてたから、雛姫から来てくれて良かった」
「べ、別に私はお前を迎えに来た訳じゃないからな!たまたま…」
「わかったよ。ありがとな」
ありがとう、なんて分かってないではないか。
堪えるような笑いを漏らす平助には言えなかった。
気付いてしまったから。
私が必死に走ったのは、この人に会いたかったからなんだと――
「へっくし!」
当たり前のように体を震わせる平助に
「このままでは風邪を引くぞ。…城へ寄って行け」
「大丈夫だって!馬鹿は風邪引かねぇし!」
自分なりに精一杯伝えたのだけれど、あっさりと返されてしまい、私は無意識に平助の浅葱色を掴んでいた。
「……私が、寄って行けと言っているのに…」
「雛、姫…」
どうして気付かない?
どうして伝わらない?
どうして言えない?
私が、平助といたいんだ――
「それじゃ、寄らせて貰おうかな…」
目を逸らし頬を掻く平助につられて、私の頬も染まる。
そんな顔を見られないように、私は浅葱色を引っ張った。
そして、灰色の空に願う。
平助が濡れないように、明日は晴れますように――
終