薄桜鬼

□藤堂くんと初めての口付け
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私は屯所から出て、そわそわと庭を行ったり来たりしている。


「まだかな、まだかな。怪我とかしてないかな…」


絶えず独り言を言いながら門を見つめていると、丁度浅葱色の集団が入ってきた。

私は待ちきれず、その集団を先頭で率いている彼へ駆け寄った。


「藤堂君!」


私と藤堂君が付き合って…この時代で言う“恋仲”になって、暫く経った今も私達は特に変わった様子もなく、いつも通り過ごしていた。

いや、いつも通りではないかもしれない。

会えない時間恋しくて、だけど一緒にいるとドキドキして、目を見ることは出来なくて…どこかぎこちなくなってしまう。

本当はもっと一緒に話したり、出掛けたりしたいけど、連日の彼の隊務を考えると、そうもいかない。


「おかえり、藤堂君!」

「明日香!ただいま」


彼は額巻きを取りながら、後ろの隊士達に先に戻るよう指示した。
そんな姿を見ると、改めて幹部なんだなと思わせられる。


「いつも出迎え、ありがとさん」

「ううん!藤堂君が帰って来るの待ち遠しくて…」


笑って顔を上げると、じっと私を見つめる彼と目が合い、どきりとした。


「ど、どうしたの!?」

「いや!……あのさ、」


藤堂君は言いずらそうに、視線を泳がせる。


「ん?」

「…嫌だったら、聞き流してくれな…?」

「何を?」


話を促すと、大きく息を吐いて


「俺らさ…恋仲、だよな?」

「う、うん」

「俺は明日香が好きで、明日香も俺を好きでいてくれてる」

「うん」


私ははっきり頷く。
藤堂君が好き――それに間違いはないから。


「だから、さ…もっと、明日香に触れたい」

「え?」


もっと、触れたい。

その意味を問うように傾げると、藤堂君は頬を染めて


「だから…っ、口付けたいってことだよ!」

「えぇ!?」


口付けたいって…キスしたいってことだよね!?


「だって俺とお前恋仲じゃん!けど、それっぽいこと全然出来てねぇし…」

「そ、そうかな…?」

「そうだよ!お前は嫌がると思うけど…俺は毎日だって明日香に触れてぇのに」


毎日だって。

嬉しくて、そう言ってくれる藤堂君が愛しくて、私はそっと彼の手を取る。

嫌じゃない、嫌なわけないって――


「ありがとう。…嬉しい」

「明日香…」


それだけで交わった視線は熱くなり、どちらからともなく瞳が閉じられた。

唇が控えめに重なる。

初めて触れた唇は、私を優しく愛しく慈しんでくれ、心地良かった。


「やべぇ…」


一瞬離れ、今度はさっきよりも少し長く深めに口付けられる。


「ごめん…止めらんねぇ」

「…私も」


初めてを何度も交わす。

キスって、こんなに気持ち良いの?
ううん…きっと藤堂君だから。


私達は確かに、お互いの蜜の甘さを知ってしまった。




            終

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