薄桜鬼

□藤堂くんとぎくしゃく
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「お、明日香ちゃん早いなー。こんな美人が見られて、稽古の疲れも吹っ飛ぶぜ!」

「新八…何朝から口説いてんだよ」

「何だよ!わざわざ俺に会うために、早起きしてくれたんだ!口説きたくもなるぜ!」

「いや。お前に会う為ではねぇ。どっちかっつーと、俺だな」

声をかけてくれたのは、永倉さんと原田さん。
朝稽古から帰ってきた二人の体には、雫が光っていた。

しかし私は、そこに見当たらない姿を無意識に探してしまう。


「あの…藤堂君は一緒じゃないんですか?」

「何だ平助か…。あいつならまだ道場じゃねぇか?」

「あぁ…平助の奴、ここん所無茶苦茶な刀筋で、土方さんと山南さんにこっぴどく言われてたな…」

「俺もあいつの稽古を見たが、ひでぇもんだったな…あれじゃ、北辰一刀流が聞いて泣くぜ」


二人の言葉に、俯くしかなかった。

今、藤堂君をそんな風にしているのは、少なからず私だろう。

だから何も言えなかった。

しかし、そんな私に気付いたのか、原田さんに優しく肩を叩かれた。


「何煮詰まってんだか。明日香、元気づけてやってくれねぇか?お前なら平助も喜ぶだろ」

「え…!」

「平助を頼んだぞ」


正直、気が引けた。
私じゃ、余計藤堂君を困らせるんじゃないかって…
でも、私も藤堂君に言わなきゃいけないし、何より…会いたかったから――


気がつくと、私は走っていた。






道場には、木刀を持って大の字に寝転んだ藤堂君がいた。

深緑の瞳で遠くを見つめている表情に憂いが見え、私の心が大きくざわめく。


「…藤堂君」


上がった息を整え、ゆっくり歩み寄る。
顔を覗くと、藤堂君の大きな目が更に大きく開かれ、体ががばっと起き上がった。


「うわぁ!!!明日香!?どうしてここに…!?」

「原田さんと永倉さんに聞いて…あの、稽古見ててもいい?」

「い、いいけど…全然面白くねぇぞ」


こうして会話をしていても、お互い目を合わせることはなく、適度な距離を保っているように見えた。

しかし、一心不乱に木刀を振る藤堂君を見た時、私はつい見とれてしまった。

確かに、いつもの彼らしい立ち振る舞いではなかったかもしれないが、これこそが日本男子そのものの姿なのだと思うと、目が離せなかった。

私だって、元いた時代に好きな芸能人や好きな人がいたこともあったけれど、今目の前で木刀を振る姿をこの人を、誰よりも格好いいと思った。


     カランッ


「藤堂君!?」


突然響いた木刀の転がる音に驚いて、私は思わず彼に駆け寄ったが


「く、来んな!」


思いもよらない言葉に足が怯んだ。

人から拒絶されることは、こんなに悲しいのに、私はそれを彼にした。

二人っきり道場は大きすぎる。

呆気に取られ立ち尽くす私に、藤堂君はハッとし


「悪い…!俺、頭冷やして来るから…」

「ま、待って!藤堂君…」


顔を伏せ、足早に隣を通り過ぎた背中を咄嗟に追いかけたが、伸ばした手は届かず、視界は大きく傾き、足はもつれて体が倒れた。


「おい…明日香、明日香!!!!」


あなたの声だけが闇の中に響いていた――
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