薄桜鬼

□藤堂くんとぎくしゃく
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それでも朝はやって来る。

日差しに目を開けると見えるのは、変わらず屯所の天井。
出来ることなら自分のベッドで目覚めたかった、と私は何度ため息をついただろう…


外に出て慣れたように庭の井戸で水を汲み、顔を洗う。

あの人血を落とすように――





新選組は浪士の会合に討ち入った。

無理に同行を許可して貰った私は“討ち入り”を甘く見ていたんだと思う。

だから動けなかった。
白光が煌めき、がたいのいい浪士に刀を掲げられても、殺される!と分かっても、動けなかったのだ。

だって、私にとって刀と刀の斬り合い何て、所詮ドラマや映画の中での出来事だったから。

何でもないように人を斬りつけ、生臭い血が漂い、屍が重なっていく…そんな現実では考えられないことが、今私の目の前で起こっている。
その事実に目眩がした。


「…うぇっ…」


新選組の役に立ちたい、藤堂君の為に何かしたい、守られるだけじゃ嫌。
そう思って付いて来たのに、これじゃ役に立つ所か足手纏いだよ…

涙でぼやけた視界の中で、浪士は私に刀を振り下ろした――





しかし、いくら目をきつく瞑って待てども痛みを感じることはなく、代わりに顔にぽつぽつと大粒の雨が降り注いだ。

…………あ、め……………?

目を開けると、目の前でどすんと浪士が倒れ、またあめが降る。

手で拭うと、そのあめはどろりとしていて、生臭くて……あかかった


「明日香!!!大丈夫か!?怪我ねぇか!?」

「藤堂君…っ」

「立てるか?」


聞き慣れた声に安堵し振り返ると、そこにいたのは紛れもない彼だった。

浅葱色の隊服も、綺麗に伸ばされた髪も赤く染め、まだ温かいそれを刀から滴らせる彼だった。

いつもみたいに優しい手も……あかくて


「いやっ!!!!!!」


気がついたら私は、差し出された藤堂君の手を振り払っていた。


「……悪ぃ」


そう言った彼の顔を思い出す度、私は自分のしたことを後悔した。

酷いことをした、最低なことをした、謝らなければいけないと分かっているのに、何となく気まずくて目を合わせられない。

それは藤堂君も同じみたいで、度々私を避けているように見えた。

自分で振り払ったくせに悲しく思うなんて、つくづく私は勝手な人間だと思う。

傷付いたのは、藤堂君の方なのに――
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