薄桜鬼

□藤堂くんと手を繋ぐ
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桜吹雪と共に舞い降りたあいつの姿が、今でも頭から離れない

思えば、出逢ったあの日から俺は明日香を――




「藤堂君!」

名を呼ばれ我に返ると、心配そうに顔を覗き込んでくる明日香と目が合う

それだけなのに、俺は平常心を保てなくなる


「あ…悪い!」

「大丈夫?夜の巡察で疲れてるのに来てもらっちゃって、ごめんね…?」

「そんなことねぇよ!明日香といねぇと俺、何も出来る気しねぇし!」


迂闊だった。
今は明日香と町に来てたのに、考え事に気を取られて…
けどこいつは怒るでなし、それどころか俺の心配をしている。

俺はお前に心配されるような男じゃないのに――


「ふふ、大袈裟だよ。でも、嬉しい。私も藤堂君といると、元気貰えるよ」

「俺は、お前に何もしてやれてねぇよ…」


俺の方が、明日香から元気貰ってるっつーの!

屯所に帰れば必ずいて、笑ってくれる。

嗚呼、俺はこの笑顔に逢うために京に来たんだ、なんて思わせられたこともあった。

けど、明日香は俺たちと違って、ずっと一緒にはいられないんだ…
こいつはこいつのいた場所に帰らなければならないから。

俺の気持ちなんて伝えたところで、どうなるっていうんだよ…


「…私、藤堂君といられるだけでいい、よ…?」


俯き加減で言う姿に、俺は動揺を隠せない。


「馬鹿っ…あんまりそういうこと、言うな…!」

「ご、ごめん…!」


お互いの顔はわからないが、きっと二人共、朱色に染まっているだろう。


「ねぇ…藤堂君?」

「ん!?」

「私の時代で出来なかったこと、やってもいい?」

「出来なかったこと?」


俺を見上げる明日香の言葉に首を傾げると、控えめに右手が差し出された。


「手、繋ぎたいな…」

「え…」


頭が追いつかず、俺は明日香の手を見つめた。

白くて小さなそれは、確かに女のものだった。

この血塗れの手で触れて良いものか、というくらい綺麗な手に、俺は戸惑った。


「出来なかったって…」

「で、出来ないよ!だって私、手を繋ぎたいって思う人がいなかったから…」


     ザァッ


呟いた明日香の言の葉は、一層強く吹いた風に舞い上げられてしまった。


「明日香…?」

「ごめん…何でもないよ」


そう言って引っ込めようとする右手を、俺の左手が勝手に掴まえていた。


「藤堂君…」

「これで、いいんだろ?だから…そんな顔すんなよ」


左手へと握り直した俺の手を、明日香は嬉しそうに握り返してきた

思いが繋がれた手から伝わってしまわないか、どぎまぎしたが、そんな心配はなかった

緊張しているのは、お互い一緒だったから



あいつと共に舞い降りた桜吹雪が、今でも頭を離れない

思えば、出逢った日から俺は明日香を――桜吹雪と重ねていたからかもしれない



            終

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