薄桜鬼
□藤堂くんと島原
2ページ/2ページ
「はぁ…ここまで来りゃいいだろ」
走りっぱなしだった足を止め、狭い路地に身を隠す
酒宴を荒らしてしまったため、お座敷の主人が私たちを探しているはずだ
周りが静かになって、藤堂君はやっと抱いている私に目を向ける
「うわぁぁぁ!悪い!えっと…その…」
体を引き離し、何から話そうとあたふたする藤堂君に私は笑いかけた
「藤堂君、助けてくれてありがとう」
「へ………?」
「…嬉しかった」
私の言葉に大きな目を見開くと、彼はそのまま視線を逸らす
「あれは…明日香が他の男に触られんのが嫌で…
そもそも、お前を島原に連れて来るべきじゃなかったんだ…
嫌な思いさせて、ごめんな…」
いつもの明るい笑顔を微塵も感じさせないその表情に、私は悲しくなってしまった
藤堂君にこんな顔をさせているのは、私なのに
「藤堂君…私、藤堂君と一緒だったから島原に来たんだし、それに藤堂君が守ってくれたから、嫌なことばっかりじゃなかったんだよ?」
「明日香…」
まっすぐ目を見て伝えた
この気持ちに嘘はない
藤堂君の顔が歪んだ
「もう…耐えらんねぇ」
え?と聞き返す前に、背中に固く冷たい木の感触を感じた
私は優しく壁に押し付けられていた
「こんな綺麗な格好してる上に、そんなこと言われたら…我慢なんてできねぇよ」
「…んっ」
ゆっくり重ねられた唇は、ほんのりお酒の味がした
でも、嫌じゃなかった
寧ろ、もっと味わいたいとさえ思った
しかし、その唇はすぐに離れてしまった
「いきなり、ごめんな…。嫌だったら嫌って突き飛ばしていいんだぞ」
「嫌じゃないよ。それに…
もっと、して…」
「明日香っ…!」
再び重なった唇の間から絡められた舌
深くなる口付けにお互いが酒興した気分になる
「…んぁ…ん、ふ…」
私はその首に腕を回し、夢中で藤堂君を貪る
彼と口付けている時だけは、自分が別時代から来たことなんて忘れられた
「………あ」
静かに振袖の帯が緩められた
「藤堂、君…」
「明日香…ずっと、傍にいてくれよ」
返事の代わりに、私は目を閉じ、彼を受け入れた
その後、帰った私たちに土方さんのお説教が待っていたのは、言うまでもない
終