薄桜鬼
□藤堂くんと島原
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初めての島原、初めての振袖、初めてのお酌
周りの芸者さんのように結い上げられた髪には様々な飾りの簪を挿し、少し濃いめのお化粧を私は施していた
「私、絶対浮いてるよ…」
我ながら、似合っていないと思う…
こんなことなら、もっと女の子らしいことをしておけばよかった、と今更後悔
この姿でいるだけでも十分緊張しているのに、男の人にお酌をしなければならない
初めてのことにどうしていいかわからず、私は酒客と芸者で溢れるお座敷に立ち竦んでしまった
「女!名は何と申す」
そんな私に、体格がいい一人の酒客がずいと盃を突き出してきた
「明日香です…」
「明日香…ちと変わった名だな。気に入った!明日香、さっさと酌をしろ」
「は…はい…」
心細くて、少し離れた所で酒席に混ざっている藤堂君を見つけると、彼もこちらを見ていたのか、だがすぐにその視線は逸らされてしまった。
今にも吐き気を催しそうな酒気に顔をしかめ、震える手で盃にお酒を注ぐ。
「ん?震えているようだが、そなに緊張するな」
さり気なく詰められる距離に、つい後退り。
帰りたい……………………
でも、今の私には帰る場所なんてないんだ――
しばらくすると、お座敷はお酒の匂いしかしなくなり、酒客にも酔いが回り始めていた。
当の私は、限界寸前。
酒気が目に滲みるのか、視界がぼやけてきていた。
「おい、明日香!もっと此方へ来んか!」
ついお酌の手が止まってしまった時、今まで保たれていた適度な距離がなくなった。
抱きしめられたと理解するのに、時間はいらなかった。
「いやっ…、藤堂君…!」
ガシャンッ
私が抵抗に転じるより先に、激しく何かが割れる音と芸者さん達の悲鳴が響いた。
そして、飛ばされた酒客から解放された私は、優しく肩を抱き寄せられた
「てめぇ、明日香に触んじゃねぇ!!!
こいつに近づく奴は、俺が叩っ斬る!」
耳元で聞こえるその聞き慣れた声と、私と同じく少し速まった心臓の音が自然と安心をくれた
「て、てめぇ…」
彼に刀を向けられても、かなり酔いが回っているためか、立ち上がることすら出来ない
「くそっ…チビが覚えてろ!」
勝ち目がないとわかると、罵声を吐いて転がるように逃げていった
「へっ、一昨日きやがれ!」
鼻高々な藤堂君だったが、一つの対象をなくした周りの視線は、こちら一点に集まっていた
「な、何かやべぇ…。明日香、ずらかるぞ!」
「え…藤堂君!」
それに気付いた藤堂君は、私を抱え外に飛び出した