薄桜鬼

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灯りも点けずに畳に寝転ぶ。

左之さんに殴られた左頬がまだじんじんと熱い。

すっかり頭の冷めた俺には、後悔しか残っていなかった。

柄にも無く、あんな風に総司に喧嘩ふっかけて…。

熱くなると周りが見えなくなるのは、俺の悪い性。
その所為で、きっと明日香を傷付けただろう。

腕を振り払った時の情景を思い出す度、どう明日香に会うべきか考えた。

いや。もし、もう来てはくれなかったら…?

今頃、総司と…。

何時かと同じように、悪い考えが生まれる。
しかし、今度は頭を振っても消えてはくれず、膨らむばかり。

もしかしたら、このまま…なんてこと――


「藤堂君!」


突然の声に、俺は閉じていた目を見開き体を起こした。

すると勢い良く明日香が部屋に飛び込んで来て、俺に抱きついた。

明日香の頭が勢いで、さっき一君から食らった鳩尾に食い込んで、


「い"ってぇ!」

「あ、ごめんね!大丈夫?」


気を遣って離れた明日香の体を引き寄せると、体をすっぽり隠した。


「構わねぇから。こうしてろ」

「うん…」


俺の腰にしっかりと回る細い腕。

これが明日香の答えなのか…?


「遅かったじゃん」

「ごめんね…沖田さんの所、行って来たんだ」

「え…?」


それって…?

頭を整理出来ずにいると、顔を上げた明日香と目が合って


「藤堂君が好きって、行って来たの」


なんて、にっこり笑うんだ。


「明日香っ…」


そんなことされたら、もう離してやれねぇじゃん。


「…俺…明日香に愛想つかれたと思ってさ。もしかしたら…もう来ないんじゃねぇかって、総司のものになっちまったらどうしようなんて考えてた…本当、男らしくねぇよな…だからさっきも夢中で…お前の事怖がらせて、ごめん…」


そう言う声も震えている。

自分が情けなくて笑うと、明日香が体を起こして顔を寄せて来て


「それでも、好き」


唇が重なった。

角度を変えて啄むように唇を動かすと、明日香もそれに合わせて俺の唇を啄んで来る。


「んっ……藤堂君…」


ゆっくり離すと、名を呼んだ吐息が唇にかかった。

明日香の指が、俺の左頬を癒やすように撫でてくれる。

前髪を掻き分けてやると、丁度雲から出て来た月明かりで明日香と目が合った。


「なぁ…」


だから、ずっと気になっていたことを


「総司と…前にも口付けたことあんのか?」


言いずらそうに顔を背ける明日香。

でも俺は、明日香の口から聞きたかったから、じっと言葉を待つ。


「うん……言えなくて、ごめんね…」

「何時?」

「前に沖田さんとお団子食べに行った時……好きって言われて…」


やっぱり、総司は明日香が好きだったのか…。


「で、でも…私の好きな人は…」


顔に出ていたのか、弁解する明日香に意地悪く笑って見せた。


「知ってるよ。俺、なんだろ?」


恥ずかしそうに頷いた明日香をゆっくり畳に寝かせ


「けどこれは、言わなかった罰な?」

「あ……ふふっ」


首筋に息を吹きかけると、明日香はくすぐったそうに体を捻った。


「藤堂君っ」


止めて、とばかりの軽い抵抗。

俺は、その手を掴んで頭上に持って行かせると、今度は舌を鎖骨に這わせた。


「ひゃっ…」


吃驚した反応が可愛くて、仕切りに首筋に吸い付いて、烙印みたいに痕をつけていく。

もう、誰にも盗られないように。


「藤堂君…これじゃ罰じゃないよ…」

「罰じゃん。もう元の時代戻っても、他の男作れねぇから」


冗談っぽく言ったつもりが、明日香は真面目な顔で


「いつの時代でも、藤堂君以外いらないもん」


嗚呼、そうかそんなに俺はお前に惚れられてたのか。

けど、それ以上に俺は、お前に惚れてるんだぜ?


「明日香、愛してる」

「うん。…愛してる」


んっ…と甘い息を漏らし合い、唇じゃなく舌を合わせ合う。
口付けじゃなくて、舌吸いみたいにお互いの蜜を味わうと、明日香は砂糖菓子よりも甘くて、酒よりも俺を酔わせた。

そのまま明日香の着物に手をかけ、袷からゆっくり剥いで行く。

抵抗はせず、慣れたように袖から腕を抜いた明日香は、綺麗な女体を晒け出した。


「本当、綺麗だよな」

「…藤堂、君……あっ」


白い雪山みたいな胸を鷲掴みにし、やわやわと揉む。
その頂きをくりくりと指で弄ぶと、この上無いくらい艶やかな声が出た。


「…あっ…ぁあん…」

「そんな顔すんの、俺の前だけにしろよ?」

「…ん……藤堂君の、前でしか出来ない、もん…」


こいつは、俺にどうされたいんだろう?

俺をこんなに煽って


「…あんっ、や…!」


ちゅっと桃色の頂きを口先で吸うと体が跳ね、俺の頭を胸に押し付けるように抱えた。

暫く交互に吸っていると、明日香が腰をくねくねと動かしている事に気付いた。

だから、素早く袴を下ろしてやりそこに指を当てると、既に愛液で溢れていて


「…うっ…あぁっ……」


指を入れると、すぐに俺を欲しがった。


「藤堂君…っ」

「分かってるよ」


正直、俺も限界だったから手早くそそり勃った自身を明日香に宛てがい


「挿入るぞ?」

「……うんっ」


腰を沈めた。

すると、其処は熱くて気持ち良くて、沢山思いが溢れていた。


「くっ…大丈夫か?」

「…ぁふっ…ん……」


うんうんと頷いたのを確認してゆるゆると腰を動かす。

すると、すぐにお互い律動を速めて行き、夢中で腰を振る。


「ああ……も、っ…」


くぐもった声になり同時に達する直前、明日香は汗ばんだ顔でふっと笑った。


「…うっ…」

「あっ…あ、あああああ!」


明日香は背筋を仰け反らせて、俺は中に思いと一緒に白濁を吐き出した。

残ったものは、快感――



























お互いが脱いだ着物を裸体にかけ、俺の腕の中で力無く横になっている明日香。

その目には、涙。


「…どうした?辛かったか?」

火照った顔をふるふると振ると、薄く笑って


「幸せ過ぎて」


その七文字を紡いだ唇にちゅっと軽く制裁。


「馬鹿。俺の方が幸せだし」

「違うよ、私だよ」

「いや、俺だって!」

「私なの!」


俺、と言い返す前に何だか可笑しくて、二人で吹き出した。

そして、改めて思うんだ。

幸せってこういう事か、って――


「明日香」


きっとお前といれば、何だって幸せなんだと思うぜ。

明日香は、俺といられて幸せか?


「俺を選んでくれて、ありがとう」


穏やかに笑うその笑顔が答えなら、俺は口付けで返すよ。

これが俺の気持ち――




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