薄桜鬼

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半ば強引に連れて来られた京の町。

私の手を引く沖田さんは、何処か上機嫌で


「此処で食べようか」


一軒の茶屋に入ると、二人分のお茶とみたらし団子を頼んでくれた。

しかし、手は動かなかった。

頭の中では、今頃藤堂君はどうしているかとか藤堂君の刀の手入れは捗っているかとか井上さんや山南さんのお手伝いで、藤堂君は無理をしていないかとか…。

文字通り、藤堂君の事ばかり考えていたから。

今日は、ずっと隊務に追われていた藤堂君と一緒にいられる貴重な非番の日だった。

決して沖田さんといることが嫌な訳ではない。

しかし、確実な思いの差はあると思う。

藤堂君とは付き合っている、所謂"恋仲"なのだし


「食べないの?」

「でも、こんなに沢山…」

「いいんだよ。君の為に頼んだんだし」


満面の笑みの沖田さんに罪悪感が生まれる。

どうしよう…。
折角、沖田さんが私の事を考えてくれているのに、私はその気持ちを受け取れ…


「明日香ちゃん」


名を呼ばれ俯いていた顔を上げると、怒ったような悲しいような表情の沖田さんがいた。


「今、誰の事考えてる?」


どきりとした。

そして、怖かった。

鋭い沖田さんの目に、心を見透かされそうだから。


「沖田さん……」

「平助の事でしょ」


いや、見透かされている。

だから、ただ俯く事でしか肯定を表せなかった。


「図星でしょ」

「…はい」

「そんなに平助が好き?」

「はい」


真っ直ぐ見つめ頷くと、急に立ち上がった沖田さんはぐいぐいと私を引っ張って茶屋を出る。
手付かずのお茶と団子を残して…。


「あ、あの……沖田さん!」


合わない歩幅に小走りになってついて行くと、突然入った路地裏の壁に逃げないよう押し付けられた。


「沖田さ――――」


昼間でも薄暗い路地裏で、近付いて来る気配がした。

そして、唇に感じた違和感。

それは先程、藤堂君と幾度も交わしたものと同じ――


「んっ!んん…ゃ――」


反射的に顔を歪ませ、顔を背けようと首を振る。

それでも離れてくれない唇に、私は厚い胸板を全力で押した。


「はぁ…はぁ…」


両手で胸板を抑えながら、肩で息をする。

目には涙が溜まりに溜まっていて、瞬きをした途端に零れ落ちた。


「嫌だった?」


飄々と言い放った沖田さんだったが、薄暗い中の表情は歪んでいたように見えた。


「…どうして…こんなこと…」


こんな時に、優しい藤堂君の笑顔が浮かんできて


「…どうしてこんなことするんですかっ…どうして、藤堂君と私を…離そうとするんですか…っ」


途切れ途切れに訴えると、沖田さんはそっと私の瞳を覗いてきた。


「分からない?」

「え………?」

「本当、つくづく明日香ちゃんって鈍感だよね。自分の時代にいた時もそうだったの?」


笑われる意味が分からなくてぽかんとしていると、沖田さんはまた笑顔を隠して


「明日香ちゃんが好きだからだよ」


沖田さんの瞳に吸い込まれてしまいそう。

この人の目は、こんなに綺麗だったんだ。
こんなに真っ直ぐ見つめられるんだ。


「お、沖田さん…でも、私…」


言葉の意味をそう理解した私が驚きと戸惑いを露わにしていると、沖田さんは言わないでとばかりに私の唇に人差し指を当てた。


「知ってるよ。明日香ちゃんは平助と恋仲で、平助が好きなんでしょ」


だから、と続く


「別にそれでも構わない」


衝撃的な言葉だった。


「君の二番目でもいい。僕じゃ、平助の代わりにはならない?」


それは所謂――


























二股
























「僕を平助だと思ってさ」


そんなことしちゃ駄目。

けど、縋るように抱きしめる沖田さんに何と言っていいのかも分からなかった。

駄目だよ、って言わなきゃいけないのに…。

私の好きな人は、藤堂君の筈なのに…。





こんなに
揺らぐ心




             続

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