薄桜鬼

□藤堂くんとお酒の力
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その日、夜の巡査を終え屯所に帰った俺は息を飲んだ。

なぜなら


「よぉ〜〜〜〜平助、帰ってきたか。お前も一杯どうだ」

「いやいやいや〜〜〜平助殿!お疲れ様です!」


こんな夜更けにも関わらず、左之さんと新八っつぁんが酒を呷っていたからだ。


「ちょっと、何やってんだよ!土方さんに見つかったら…」

「平〜助、心配いらねぇよ。土方さんは今、ちょっくら出てる」

「え?」

「そうだ!だからこんなに飲めんのも、今夜が最後だぜ〜」

「って、それ何回目だよ!二人共、俺が巡査してるっつーのに何やってんのかなぁ!」


呆れてしまう程泥酔した二人を横目に、疲れた体で踵を返し部屋を出る。

が、目を疑うような光景に俺は部屋の端に目を凝らした。

そこには


「明日香!!!」


徳利を持った明日香の姿が!!!!!

幾度自分の目を疑っただろう。
見間違いであって欲しかった。

「何で明日香に飲ましてんだよ!」


角を指差し発狂したように叫ぶと、二人はしれっとした顔で言う。


「何でって。酒に付き合うなら飲むのが定石だろ」

「明日香ちゃんもいい飲みっぷりだぜぇ〜この樽全部飲んじまったんだからよ〜」

「これ全部!?」


思わず声が裏返ってしまう程の衝撃的な事実。


「正気か、明日香!」


俺は急いで背を向ける明日香の顔を覗き込んだ。

しかし案の定、その顔は桃色に火照り目は据わり体はゆらゆらと揺れていた。

どうやら、この場に正気な人間は俺だけのようだ。



「左之さん、新八っつぁ――」


物申すと立ち上がった途端、何故か体が後方に倒れた。

そして、俺に跨がる明日香の姿。

そうか、俺は明日香に押し倒されたんだ。

そうか




























ええぇぇぇ!?

女に押し倒されるとか何々だよ、俺!

しかも左之さん、新八っつぁんの前で…。


「明日香、ちょっと待て!降りろ!」

「藤堂君……んっ」

「ん!」


俺の上に乗ったまま、口付けをされる。

おいおいおいおいおい!!!
頼むから、待ってくれよ!!!


「何だ平助。見せ付けか?」

「いーい度胸だな〜」


違ぇ違ぇ!

言葉を紡げない俺でも雰囲気で身の危険を察した。

だから、少々残念だが明日香を引き剥がし、そのまま自室へと駆け逃げたのだった。


























襖を閉めて安心出来たのは、ほんの束の間だった。

勢いで連れてきてしまったが、その明日香が異様なまでに


「ねぇ〜…藤堂君…私のこと、好き?」

「え…あ、あぁ…」

「ちゃんと好きって言ってぇ…」


あれ?
明日香ってこんな奴だったか?

何か、すげぇ…………


「あ、あー…す、好きだぜ…」


何言ってんだよ!!!!!!
いや、好きだけどさ。
すげぇ好きだけどさ。


「証拠、見せてよ……」

「証拠って…!」


すると明日香は、俺の胡座に跨がり肩に手を置くと、少し高くなった目線から見つめてきた。

何かその顔が色っぽくて、自然と惹かれていた。


「明日香、愛してる」

「…う、んんっ…」


膝立ちの明日香の腰に手を回し、明日香は俺の両頬に手を添えて口付け合う。

月明かりだけの部屋に厭らしい水音だけが響く。


「ん……ふ、あ…」


明日香の唇も舌も酒の味がして、俺まで酔わせる。


「藤堂君……」


胡座の中の異変に気付いたのか、好奇の目を向けられた。


「ごめん……俺、」

「私も…」


そう言って俺の手を取ると、自分の下半身に持って行く。


「お、おまっ……!」


そこは、しっとり濡れていた。



理性半壊の俺は、ごろりと明日香を押し倒す。

とろんとした目にぎしぎしと音を立てる理性。


「明日香、酔ってんだろ。酒の勢いでそう言うのやめ…」

「勢いじゃないよ。これが私の本心だよ。いつだって、私は藤堂君に抱かれたいって思ってるの」


こいつはなんつー恥ずかしいことを言ってんだ!

正直、すげぇ嬉しい。

酔って本心が出ることもあると思う。

けど、それを当て付けみたいにして明日香を抱くなんて…。


「ねぇ、藤堂君……」


誘うようにねっとりと酒気漂う舌で俺の唇を湿らせる。

だから俺も瞳を閉じ、舌を差し出す。

それが合図かのように、どちらからともなくお互いの着物に手をかけ、脱がし合った。




























「…あっ……は…ん」


両足を開いて喘ぐ明日香。その上で腰を振る俺。

酒が入っている為か、いつもより積極的ですごく感じてくれているようだ。


「明日香っ……気持ちいいか?」

「…うんっ……もっと…あぁっ」


淫乱な明日香の奥の奥を突いてやると、其処がいいとばかりに腰を揺らしてくる。

お互いに動きを速め、絶頂へと向かう。


「とうど、く……わたし、もうっ…」

「…俺もっ……」


体が身震いし、俺達は同時に


「……くっ」

「あ、あぁぁあぁあぁっ!」





飲酒厳禁









いつもより遅めに起床してみると、炊事場からは朝餉のいい匂いと既に明日香が起きていた。

自分を情けなく思いながら鍋を混ぜる姿に近付く。


「ようっ」

「藤堂君!おはよう」


何事もなかったかのように笑顔を見せる。


「お前早いな。…その…か、体…大丈夫なのか?」


言いずらかったので、何となく言葉を濁すと、明日香は目を見開いた。


「どうしてわかったの!?」

「へ?」

「それが今日、ちょっと体が重くて…風邪かな?ふふっ、藤堂君には何でもわかっちゃうんだね」


嬉しそうに顔を綻ばせる明日香に、開いた口が塞がらなかった。


「あ、当たり前じゃん!明日香のことはお見通しだっつーの!」


恐らく覚えていないのだろう。

少々残念に思ったが、そういうことにして置くことにした。

昨夜のことは俺だけの


「平助」

「うわっ!何だよ。新八っつぁん、左之さん」


突然現れたでかい図体の二人が俺の前に立ちはだかった。


「何だよだ?言うようになったな、平助」

「は?」

「明日香早起きだな。新八なんて酔い残りで酷ぇもんだ。酒強いんだな」

「お酒…?」


何のことかと首を傾げる明日香と左之さんの間で両手を広げた。


「だぁぁぁ!何でもねぇよ!ほら二人共、朝餉の邪魔すんなって!」

「何だ平助。昨夜、あんなことしといて、もしかして覚えて貰ってねぇんじゃねぇかぁ」

「新八っつぁん、うるせ…って、何で!?」


何でそれを!?

焦る俺を見かねた左之さんのため息が聞こえた。


「お前らの声、駄々漏れだったぜ。今夜は気を付けろよ」

「〜〜〜〜〜〜っ!」


恥ずかしいなんてもんじゃない。

それを超えて、悔しい――

俺の、俺だけだと思ったのに…まさかよりにもよってあの二人に聞かれるなんて。

俺は、清々しい顔で去って行く二人を恨めしく思った。


「だ、大丈夫?藤堂君…」


がっくりと肩を落としていると、顔を覗き込まれた。

何も知らない、純粋な瞳で――





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