薄桜鬼

□淡い恋心を抱く藤堂くん
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巡察も終わった帰り道、一件の茶屋の前で立ち止まった。


「お前ら、先帰っててくれねぇか?」


後ろを歩く隊士達にそう告げると、俺は脱いだ隊服を懐へしまい茶屋へ入った。


「いらっしゃい」


すると、淡い筆画をあしらった着物の小春が、いつものように俺に笑いかけてくれた。

それだけで心臓が鼓動を早める。

いつも通りいつも通り……!


「ようっ」

「藤堂様!また来てくれたんですね!」

「あぁ……たまたま近くを通ったからな!」


我ながらよく言う。

そもそも、この茶屋を通ることは滅多にない。

だから今まで、この広い京でこいつの存在に気が付かなかった。
わざわざ足を伸ばして来なければ、会うこともなかったのだろう。


「ふふっ、ありがとうございます。どうぞ座って下さい。今いつものを持ってきます」

「おう!」


いつもの――

そんな些細な一言が嬉しい。

俺を見てくれているんだ、分かってくれているんだって…


「どうぞ」

「あ、ありがとな」


小春が出してくれたお茶を啜る。

美味い。

美味いお茶を啜りながら俺は、せっせと働く小春の姿を目で追っている。

あ……常連らしい客と談笑しているようだ。


     ズキッ


何だよ、ズキッて……

別に話してるだけじゃねぇか。
楽しそうに話して笑ってて……


分かってんだよ、自分でだって


それが嫌なんだってことぐらい


すると

「藤堂様、お茶のおかわりいります?」


突然、遠くにいた小春が俺の傍にきて、小声をたてた。


「え!?そんなこと…」

「藤堂様、よく来てくれるから特別です」


おかわり出す茶屋なんて聞いたことねぇぞ!

にっこり微笑むと、小春は俺の湯飲みを持って行ってしまった。

特別

無意識に言われたであろうその言葉が、いつまでも俺の心に残っている。

小春は、茶屋娘。

他意はないだろう。

でも、願わずにはいられない。

俺が、あいつの特別になって欲しいと――

俺にとって、あいつはもう特別だから




その気持ちは
淡い恋心




             終

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