テニスの王子様♂

□気持ちは伝えたモン勝ちや!
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「よっ」

「よう」


突然の謙也からのメールで待ち合わせた場所に来てみると、なぜか余所行きの格好をした謙也がいた。


「悪いな、急に呼び出して」

「構へんけど…どないしたん?そないな格好して」

「ははは〜なんとな白石、ここに映画のチケットがあんねん」

「………」


にやりとした笑みを浮かべながら、持っていた鞄から2枚のチケットを取り出す謙也。

なんとなく嫌な予感がしてくるりと回れ右をすると、思いきり腕を掴まれた。


「ちょぉ待てや!どこ行くねん!ここにはチケットがあんねんで?」

「だからなんやねん」

「一緒に行こうっちゅー話に決まっとるやろ!」


やっぱり…と俺はため息をつく。


「彼女と行ったらええやん」

「おらんわ」

「このチケット、まだ有効期間あんで。謙也やったらそれまでに彼女出来るやろ」


自分で言うて自分で傷つく。
俺は、この気持ちに気付いてから無意識に謙也から距離を取っとった。


「出来るか!つくる気ないしな。せやから行こうや〜財前もユウジも行けへんねん。あとは白石しかおらん!」


それでも、つくる気ないんや…なんてホッとしとる俺。
白石しか…なんて言われて喜んどる俺。


「ったく……そうならそうと始めから言わんかい。こないな格好で来てもうたやんけ」


そして俺は、結局謙也に敵わへん。


「白石…おおきに!大丈夫や。その格好でも十分男前やで」

「…謙也に言われても嬉しないわ」

「せやろな!」


いや、めっちゃくっちゃ嬉しいねんけど!
そないなこと言われて喜ばん訳ないやん。
今にも飛び上がってなんか叫びたい気分やし、ニヤけた顔隠すのにも必死やった。

そうとも知らず、謙也は無邪気に笑って「ほな、行こか」と歩き出した。
その後ろを俺もとぼとぼついて行く。

なぜか謙也はやけに楽しそうに、時折鼻歌など歌いながら軽やかな足取りで映画館へと向かった。


「お、ラッキー。空いとるやん」


ちゃっかり売店で定番のポップコーンを買い込んで、上映時間ギリギリのところで2人で席に座った。

映画なんていつ振りやろ。
けど、こんなに緊張した映画は一度もなかったと思う。
謙也とは部活もクラスも同じやし、年柄年中一緒におったのに、2人きりは別格で緊張する。

謙也は相変わらず、2人で食べようと間に置かれたポップコーンをうきうきしながら口に運んどった。


「そんな見たかった映画なん?」

「ん、ああ…まぁな」


にっこり笑う謙也にどこか違和感を感じとると、丁度ブザーが鳴って周りが暗くなった。

俺はもう、変に意識せんように映画に集中することにした。

せやけどそんなこと出来る訳もなく。
俺は、いちいち隣にいる謙也の一動作一動作を気にしてばかり。

ポップコーン食べるところ、たまに髪の毛弄るところ、足を組み換えるところ……いちいち気にして、いちいちドキドキして、嫌なる。苦しい。

むしゃくしゃした気持ちのまま、ポップコーンに手を伸ばすと


「……っ、」


丁度同時に伸びて来た謙也の手とぶつかるっちゅーベタな展開繰り広げてもうた。

驚く俺に謙也は無言のまま手ですまん、と伝える。

…………………もう、ダメや。

そう思った俺は、勢い良く席から立ち上がり上映中にも関わらず映画館から飛び出した。


「白石!」


驚いた謙也も後をついて来たのがわかった。

頼む、来んでくれ!
願い虚しく、映画館のロビーで腕を掴まれてもうた。


「白石、いきなりどないしたん?気分でも悪なったんか?」


気遣いの言葉をかけられても、顔を覗き込んで来る謙也に、ただむしゃくしゃしとった。


「どこも悪ないわ。帰んねん」

「なんでやねん。映画、おもろくなかったん?」

「そんなんちゃう…」

「じゃなんや。俺、なんか気にすることしたん?」

「ちゃう言うとるやろ!」


誰もおらんロビーに俺の叫び声が虚しく響くと、腕を掴まれる力も強くなった。


「なんなんやねん!言わんとわからへんやろ!」


一番イラついとるんは謙也や。
俺が勝手に飛び出して、勝手にイラついとるだけやから。
その理由も謙也が知る訳ないねんけど、きっとこの時俺の中でなにかが吹っ切れたんやと思う。

だから俺は、逆の手で腕を力一杯掴み返し


「わからんか!?こんなに、こんなに好きなんに…なに一つ伝わらんか!」


謙也の体を揺さぶるようにして言った後、沈黙が流れる。
俺の頭はまだ沸騰したまま、ただ肩で息をしとった。

謙也はぽかんと口を開けたまま固まる。

ああ………言ってもうた。
あと1年辛抱しとったら、なにもなかったことに出来たんに。この気持ちさえ忘れられる思ったんに。
全部、パァや。
こればっかりは、聖書通りにいかんかった。


「…すまん」


だらりと腕を降ろし、すっかり気落ちして本当に帰ろうと踵を返した時


「言い逃げはなしやろ」


再びグイッと腕を引かれ、体勢を崩したところを謙也に抱きしめられた。


「…謙、也……?」

「俺の負けや」

「…なんでやねん……」

「伝えたモン勝ちっちゅー話や」


謙也の言葉も行動も理解出来ん。
それでもただ謙也に抱きしめられとると、少し体を離されてコツンと額と額がぶつけられた。


「俺に、わからんか!とか言うておいて自分も全くわかっとらんやんけ」

「それって……」


くすくす笑う謙也を見つめて、数回瞬きをする。
俺がその言葉を理解するのには、もう少し時間がかかりそうやった。


「俺も白石が好きっちゅーことや」





ー気持ちは伝えたモン勝ちや!ー


fin.

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