FINAL FANTASY 零式

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あの日からしばらく経ったある日の夕暮れ。

私は、一人で裏庭のベンチに座っていた。

少し前までは、こうしてナインの補習を待っていたが、もうその必要もない。

それに、


「ファイブ。お待たせしました」


彼に、私の思いも伝わらないまま。


「トレイ!」

「…っ、こら。そう易々と男に抱きついてはいけないと何度言ったら…」

「いーの!トレイだから」


ねぇ…気付いてよ。
私の好きな人は、


「ほら、帰りますよ」

「うん!」


私がトレイの腕にしがみつくと、優しい視線を感じた。


「なに?」

「あ、いえ。まるで昔のあなたを見ているようで」


そう言って微笑むなんてずるい。

確かに、私の生活は以前に戻った気がする。
けど、それと同時に変わったものもあるんだよ。


「ねぇ、トレイ…」

「何ですか」

「…トレイの部屋寄ってもいい?」


トレイの肩がぴくりと跳ねた。


「ファイブ、何を言っているのですか」

「だって、昔はよくトレイの部屋で遊んだじゃん」

「それは昔の話で…」

「さっき昔の私を見てるみたいって言ったでしょ?だから、今から私は昔の私なの!」

「そんな屁理屈を言ってないで真っすぐ帰りなさい」

「お願い!ちょっとだけ!」

「ファイブのちょっとはあてになりませんからね」


私も引かまいと必死に言い返していたが、昔からトレイに適うはずはずもなく、言葉に詰まってしまった。


「……ー。」


悔しそうに唇を噛み締める私を見かねて、トレイは小さく溜め息をつくと


「全く…あなたには適いません。本当に少しだけですよ」


私は、満面の笑みで頷いた。


























「トレイの部屋、変わらないね」


トレイらしい綺麗に整理整頓された部屋をぐるり見渡す。


「そうですか?」

「うん。いつも綺麗」

「あなたの部屋が汚過ぎるのでは?」

「うっ…そ、そんなことないもん!てか最近トレイ、私の部屋来ないじゃない」

「行く必要がありませんから。そもそも、あなたも何故私の部屋に来たのですか?」


さっさと机に向かいノートを広げ出すトレイ。


「勉強するの?」

「はい。課題が出ていたでしょう?」


何たる真面目。
トレイの生活習慣は、いつもこんなサイクルなのか…。


「構ってよー」

「そんな暇ありません。ファイブも課題を早く終わらせた方がいいですよ」

「トレイと話したいー」

「邪魔をしに来たのであれば、帰って下さい」


ピシャリと言ってのけられた。
全く私を見てもくれない。
そんなに課題が大事なのだろうか、私との時間は無駄なのだろうか。
それとも、私がただの邪魔者でしかないのだろうか。

自問するうちに、目頭が熱くなってきた。

私は、トレイといたいだけなのに…。

異変に気付いたトレイが、困ったような呆れたような顔で目元を擦る私に振り返った。


「どうして泣くんです?」

「…って…ひくっ…トレイが…っ」

「わ、わかりました。わかりましたから、泣きやんで下さい」


ぽんぽんと頭を撫でられる。

ずずっと鼻を鳴らして、立ち上がったトレイを見上げると大人っぽい表情をしていて、


「私は、ファイブに泣かれるのはどうも苦手なようです」


指先で涙を拭われた。


「…トレイ」


私は、濡れた瞳を見開いて、これ以上ないくらいにトレイを見つめた。

高鳴る心臓の音がトレイに聞こえてしまいそうで、思いが溢れ出してしまいそうで、怖い。

息を小さく吸うと


「好き」


唇が震えていた。

しかし、トレイの言葉はひどく現実的なもので


「…っ、私も好きですよ」

「違うよ…。私は、ずっと昔から、トレイのこと…男の人として好きだったの」


ずっと昔から。

ナインは、大切な仲間だった。
けど、トレイは違う。

私がナインと付き合うと言った時、トレイは何食わぬ顔でおめでとうございます、と言った。

おめでとうございます、なんて一番言われたくなかった。

―ファイブとトレイは両思いだから

そうみんなに言われて自惚れていた罰だと思った。

私の恋は、両思いなんかじゃない。
片思いだった―――


「ファイブ…」

「わかってるよ。トレイの気持ち…。けど、言っちゃった。私の気持ち知ってて欲しかったから。知って、困って欲しかったから…」


再び涙が溜まって、トレイを見上げることが出来なくなっていた。

だから、精一杯おどけて言う。

困ったでしょ?と―――


「…私、自分勝手でごめん。でも、これからもずっとトレイのこと、好き…」


やっと言えた。

"好き"のたった二文字一言が、これほどまでに思い言葉とは知らなかった。

きっと、トレイに恋をしなければ一生知り得なかったことだったね。

ありがとう、トレイ。


足を後ろに引いて立ち去ろうとした時、不意に手を掴まれて思わず、え、と声を上げてしまった。


「言うだけ言って帰るつもりですか。…私の答えも聞かずに」


開いた口が塞がらずにいると、掴まれた手を引かれトレイにすっぽり包まれてしまった。

抱きしめられるなんて思ってもみなかったからびっくりしたけれど、とっても嬉しかった。


「ファイブ」


耳元でいつもより低めに囁かれ


「あなたって人は、いつも私が躊躇っていることをそう、いとも簡単に言ってしまいますね」

「…トレイは、いつも遠回し過ぎてわかんないよ」

「遠回しではありません。私は、わかりやすく伝えようとしているだけです」


ふふ、と笑って、その背中に腕を回す。


「ねぇ、トレイ。あなたの気持ちをわかりやすく、教えて」


胸に耳を寄せると、お互い同じくらい心拍数が上がっていた。

そっと肩に手を置かれ、私達は再び見つめ合う。


「ファイブが好きです」


それは最も簡潔で、だけどとても重く、伝えることが難しい言葉。


「これから、私と共にいて下さい」

「はい!」


力一杯頷いた後、そっと頬に手を添えられた。

優しく微笑んだトレイが近付いて来たから、ゆっくりと目を閉じる。

順番は違うかもしれないけど、私達は初めてのキスを交わした。

トレイは、初めて好きになった人だった。

少し遠回りをしてしまったけれど、これが私の初恋。





初恋crazy



fin,

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