FINAL FANTASY 零式

□初恋crazy
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目が覚めると、眩しい日差しが差し込んでいたため、朝だとわかった。

ふと隣を見ると、トレイはもう支度を終えていた。


「…トレイ、もう行くの?」

「はい。早めに行って授業の予習でもしていようと思います」


いつもトレイは誰よりも先に教室に来ていたが、こんな早くに出ていたとは…。


「ファイブ、体は大丈夫ですか?」

「…!」


唐突に言われ、恥ずかしくなった私は、布団をかけるふりをして口元を隠した。


「う、うん…」

「痛い所はありませんか?」

「…ないよ。大丈夫」

「よかった」


ベッドの傍に来たトレイは、安心したように微笑み、頭を撫でてくれた。


「ですが、異物を飲み込んだのですから体は重いはずです。ファイブはゆっくり支度をして下さい」

「い、異物って…」

「異物でしょう?」


意地悪っぽく笑うと、ではまたあとで、と言って部屋を出て行った。

緊張が解かれたように私はぐったりと力を抜いた。

今気付いたが、私は衣類を着ていた。
トレイが着せてくれたんだ。そう思うと、余計恥ずかしい。

いつもは生まれたままの姿で寝ていて、起きると同じくナインが寝ていたのに、今朝は違う。

昨夜も…。

トレイの腕の中は、感じたことがないくらい優しくて、気持ちよかった。

あんなに痛かった行為が、こんなに気持ち良いものだったことを初めて知った。

今でも鮮明に思い出せる。

あの行為の淫らな私も、色っぽいトレイも。

そして、それと重なるナインの姿に罪悪感を感じた。



「おはよう」


教室に入ると、先に来ていたみんながおはよう、と返してくれた。

遅刻常習犯のジャック、シンクそしてナイン以外は、もう全員来ていたようだ。


「おは、おはよう…!」

「おはようございます」


言った通り、机にノートを広げているトレイにも少しぎこちなく声をかけると、作業に目を落としたまま一言だけ返された。

さも、今会ったような振る舞い。

....
いつものトレイだった。

昨夜のことは忘れなさい、と言うことなのだろう。

当たり前なことなのに、寂しく思う私がいる。

肩を落としたまま、只今不在のナインの隣である自分の席に座った。

その時

バァンッ


「ファイブッ!いるかコラァ!」


乱暴に教室の扉が開いたかと思ったら、物凄い剣幕のナインが入って来た。

教室をぐるりと見渡し座っている私を見つけると、大股で近付き手を掴まれた。


「ちょっ…ナイン!どうしたの!」

「どうしたのだぁ?お前、昨日の夜どこ行ってた、ああ!?」

「ど、どこって…」

「部屋いなかったよなァ?」

「…」


適当に嘘がつければ良かった。

だけど、ナインの迫力とみんなの注目の中という手前、いい嘘も見つからなかった。

ただ怖くて、掴まれた腕が痛くて、今すぐにこの場から逃げてしまいたかった。


「私といたのですよ」


はっとして顔を上げると、みんなの視線が立ち上がっている彼に集まっていた。

名前は言わなくても、誰かは明白だろう。


「ああん?んだと…何でこいつがお前といんだよ!コラ」

「何故だと思います?」


ずかずかと私を引っ張ってトレイとの間を詰めるナイン。

ただならぬ雰囲気を察して、周りのみんなもざわつき始める。


「それはこっちが聞いてんだよッ!」

「私が答えなくても分かることでしょう」


まるでナインを煽るような口調に周りも私もひやひや。


「てめぇ…」

「ナインやめて!トレイは悪くないの!」


二人の乱闘なんて見たくない。

トレイに殴りかかろうとするナインを必死に止める。

それが余計気にいらなかったようで、


「んだファイブ。トレイと何してた?ああ?言えねぇようなことでもしてたか?コラ!」

「いたっ…ご、ごめんなさい。もうしないから…ナインだけ、だから…!」


勢いで早口に言ってしまったが、気付いた時には遅かった。

言葉の意味を理解してしまったナインは、これ以上ないくらいの速さでトレイに掴みかかり、その頬に鉄拳を食らわせた。

トレイが階段の下へと飛んで行く。


「トレイ…!」


力付くでナインの手から逃げた私は、悲鳴みたいな声を上げトレイに駆け寄った。

ゆらゆらと立ち上がるトレイを支えようと出した手を制され、

―大丈夫です。

私だけに聞こえるくらい小さな声でそう言った。


ナインは、トレイに駆け寄った私とトレイを殴った自分の右手を交互に見つめた後、くそっ!と机を蹴りつけ教室を出て行ってしまった。

静まり返る0組の教室。

右頬を腫らしたトレイも無言で階段を上り、教室を出て行く。

「…トレイ!」


私は、いたたまれなくて後を追い廊下で呼び止めると、トレイは足を止めて振り返ってくれた。


「…ごめんね」


呼び止めたのはいいものの、そんな言葉しか出て来ない。


「どうしてあなたが謝るんです?」

「だって…私の所為で…」

「誰がファイブの所為だと言いました?あなたはナインの恋人でしょう。私ではなく、さっさとナインの頭を冷やしに行った方がいいのではないですか」

「……」


なんだろう。この胸の痛み。

"ナインの恋人"なんて、当たり前のことを言われただけなのに。
ナインの所に行くなんて当たり前なのに、どうして私は行かなかったのだろう。
さっきも、今も―――


「とりあえず、今までのことは忘れなさい」


今までのこと、とは昨夜の出来事も含んでいるのだろうか。

それだけ言うと、トレイは背を向けた。

私は、溜まった涙を零さないようにそっと問いかける。


「トレイは…私のこと、どう思っているの?」


どう、思っているの?


「…大切な仲間に決まっているでしょう。それ以下でもそれ以上でもありません」


そんな答え、とっくの昔に分かってた―――



con,

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