テニスの王子様

□越前くんより背が高い
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「ねぇ、黒板見えないんだけど」

「え、あ……ごめんなさい」


前の席の藤井は、背中を縮込めて頭を下げた。
それを見ていた周りがくすくすと笑っているのを見て、ため息が出る。


「あのさ」

「ん?」


授業中にも構わず声をかけると、藤井はすぐに振り返って来た。


「前から思ってたんだけど、あんた身長何cmなわけ?」

「168cmだけど…」

「あっそ」


17cm差か……………。


「…ご、ごめんなさい」

「別に謝ることじゃないけど」


明らかに表情が曇ったのがわかったのだろう。
謝られたけど、それじゃ逆に俺が惨めになるだけだ。
別に身長なんてまだ伸びるし気にしないけど、なんでこの人はこんなに気が小さいのに背は高いのだろうか。


「なにしたらそんなに伸びるわけ」

「えっと……一人で雲梯したりとか、一人で鉄棒にぶら下がってたりとか…一人で…」

「もういいや」


寂しい幼少期しか想像できなくてため息をつく。
そんなことしてたからここまで高くなったのか……いや、多分理由は他にちゃんとあるだろう。


「あ、でも私…小さい頃からバレーやってたよ」

「それは背が高かったからでしょ」

「…そう、かも」


座ってしゅんと肩をすくめると、168なんてあるように見えないくらい小さくなった。


「いいよね。生まれつき大きい人って」


皮肉と本音を込めて言うと、いつも下がりがちの眉毛がいつも以上に下がって


「…でも、大きくてもいいことなんて、ないよ…」

「なに言ってんの。山程あるじゃん」


結局、背が高い方が有利なことが多いんだよ。


「それは…あるけど、女なのにこんなに大きいのは…嫌だな……からかわれちゃうし、女の子は小さい方が可愛いから」


小さい声だったけど、俺にはしっかり聞こえた。
そして、改めて思うーー藤井は女の子じゃん。

もちろん男と価値観も違うわけだから、背が高い、大きいと言われることが嫌だったのかもしれない。

俺は、小さく目を伏せて


「女は小さい方が可愛いなんて誰が決めたの?」


そう言うと、ずっと俯いていた顔を上げて俺を見つめてきた。

大きな目、くっきり二重、長いまつ毛、筋の通った鼻、薄ピンクの頬、小さい唇。

今まで俯いていたから髪が顔にかかって見えなかった表情がよく見え、俺も見つめ返すと、目を泳がせて視線をそらされる。


「自信持ったら?大きくても可愛い人はいるんだからさ」

「そ、そうだね……モデルさんは綺麗、だしね。大きくてもあんな風だったら……」


再び顔を俯ける藤井。
言葉の意味が伝わっていないことに、今日何度目かわからないため息をつく。


「あんたのこと言ったんだけど」


え?と大きな目を更に見開かれたが、それ以上はなにも言うつもりはなかったから「ほら、先生こっち見てるよ」と手で前を向くように促す。

机に頬杖をつくと、再び向けられた背中。
相変わらず黒板は見えなかったけど、心なしか前より小さく見えた。



fin.

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