テニスの王子様

□仁王先輩に捕まえられる
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「ねぇねぇ、美香は彼氏いないの?」


サキの言葉に胸をぎゅっと掴まれたが、平静を装って当たり前のように答える。


「いないよ」


私が雅治先輩と付き合っていることは、決して知られてはいけない、口外してはいけない秘密。雅治先輩曰く。

もちろん私も、自分からそんなことを言えるような自信も持っていなかったから、学校では雅治先輩と接触することを避けた。


「本当に?」

「うん。いたらとっくに話してるもん」


こんな私が雅治先輩と付き合っているなんて不釣り合い過ぎる。
そう私が思っているように、きっと雅治先輩も私と付き合っていることが恥ずかしくて隠しているんだ。

でも、休みの日にはデートもしてくれるし、なにより優しい雅治先輩と付き合っていられることが嬉しくて、例え秘密の関係だとしてもとても幸せだった。


「まぁ…美香ってあんまり男子と話してるところも見ないしなぁ。じゃ、好きな人は?」

「いないなぁ…」

「えー、嘘だ!」

「本当、本当」


笑って嘘をつく私を、絶対いるでしょ!と睨んでくるサキに心の中でごめんね、と謝る。


「もう…絶対いると思ったのに」

「どうしてそんなに?」

「…だって」


顔をずぃっと覗かれ、心の中まで覗かれてしまいそうでドキドキしていると


「美香、綺麗になったからさ」

「え?」

「ほら、彼氏とか好きな人出来ると女子って綺麗になるじゃない?美香が最近雰囲気変わったから、彼氏いるんじゃないかってみんなで疑ってたの」


じっと見つめられて、もう顔は真っ赤だろう。
そう見られていたのか…女子恐るべし!と思うのと今まで知らなかったことへの恥ずかしさと嬉しさでいっぱいになって


「そ、そそそんなことないよ…!」

「ちょ…美香!」


両手で顔を覆い、サキを置いて廊下を駆け出した。

綺麗にしているつもりも、なったつもりもなかったから恥ずかしい。かなり恥ずかしい。
でも、もし本当に少しでも綺麗になれているのだとしたら、他でもない雅治先輩のお陰だ。

それは決して知られてはいけない、事実。

真っ赤になった頬を抑えて廊下の角を曲がったところで丁度集団が歩いて来るのが見えたが、もちろん止まれずそのまま集団の人達に突っ込んでしまった。


「きゃっ……!」

「おっと」


突っ込んだと思ったが、止めるように伸びてきた長い腕が前から肩に回されていた。
驚いてその腕を両手で掴み、ごめんなさい、と顔を上げると優しく微笑んで見ている雅治先輩。


「危ないけぇ、あまり廊下は走るなよ、美香」

「ま、雅治先輩…!」


ますます顔を赤くして驚く私の頭をぽん、と一回だけ撫でて、そのまま歩いて行ってしまった。

集団が去った後、ぽつんと取り残された私はまだ信じられずにいた。
学校で雅治先輩と話したのは、告白して以来初めてだ。しかも……

ドキドキが治まらないまま、撫でられた頭に手を伸ばしていると、後ろからバタバタとサキも追いつき


「ちょ、ちょっと…さっきのテニス部の仁王先輩だよね!?もしかして…」


肩を力いっぱい掴んで揺すられる。
私はもう、言い訳も嘘もつけず、ただ呆然と立ち尽くしていた。

その後、私が今までの嘘を謝罪し、冷やかされたことは言うまでもない。



(仁王、彼女いたのかよぃ!?なんで言ってくんねぇの)
(勿体ないじゃろ)
(あ、そう……)

fin.

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