テニスの王子様

□財前くんと貸出期間2週間
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昼休み。俺は図書委員の為、図書室のカウンターに座っていた。正直、めっちゃダルい。今日が当番なのを忘れとったから、昼寝でもしよう思てたのに…。
当然誰も来んし暇で、なんとなくパソコンの貸出状況を眺めとると、マウスを動かす手が止まった。


「なんやねん、この人…」


他の人に比べて圧倒的に貸出量が半端やない。ここん本ほとんど読んどるんちゃうか?
細かい貸出履歴に目を凝らすと、ミステリーやらファンタジーやら詩集やら偉人伝やら…わけわからん文学のもんまで貸りとる。しかもんな本、一度に4、5冊貸りて、きっちり返却日には全冊返しとった。なんやここまでやと逆にキモイわ。

そいつの名前はーー3年 藤井美香。

ま、女子やろな。しかも最終履歴を見てみると、丁度今日が返却日やった。こんなんばっか読むんやから、相当ガリ勉で地味な奴なんやろな。
俺はそれ以上、さして興味も湧かず、飽きてカウンターに突っ伏した。もうここで昼寝でもしよう思て、ゆっくり目を閉じた。





「あの……」


肩を軽く叩かれてハッとした。ほんまに爆睡しとったみたいや。


「…すまんせん」


まだ眠い目を擦って顔を上げると、ふんわりした髪に大きい茶色の目した色白の女子が「いいえ。大丈夫です」と笑うた。俺は、その笑顔から目が離せんかった。しばらく見惚れとると「返却、お願いします」とカウンターに分厚い本をどさっと置いた。それを見ただけでも驚いた俺は、返却状況を見て更に度肝抜かれた。


「…藤井、美香」


そう。こいつが俺の想像しとったガリ勉で地味な藤井美香やった。実際は、地味どころかめっちゃふわふわしとって、笑うと柔らかくて…可愛ええ女子やった。


「こっちは貸ります」


そんな女子がまた同じくらい分厚いわけわからん本をどさっとカウンターに置いた。


「自分、これ全部読んだん?」

「はい。ずっと読んでみたかった本なんです」


また幸せそうに笑う。その笑顔を見とると、ほんまに本が好きなんがよくわかった。


「でも、外国の文学ももっと読んでみたいんですけど」


今度は困ったみたいに顔をしかませた。俺は、その理由に気づいて、なんでか紙と鉛筆を藤井さんに手渡して


「ここに読みたい本書いときや。購入頼んでみるわ」


そう言った途端、藤井さんの目が今まで以上に輝いた。


「ほんまですか!?嬉しい……ありがとうございます!」


その笑顔が眩し過ぎて、顔を背けた。はずやのに、心臓はバクバク言うて、顔も妙に熱かった。
俺は、見ても俺にはさっぱりわからん本が書かれた紙をさっさと受け取って、わけわからん本を渡した。


「返却は、2週間後になります」


もう一度「ありがとうございました」と笑顔で帰って行く姿がしばらく目に焼き付いて離れんかった。

次会えるんは2週間後。
それまでに、早うこの本頼んどいたろ!

俺は紙を握り潰して、図書室を走り出た。



fin.

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