テニスの王子様

□子供が待ち遠しい一氏くん
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いつも通り夕飯の準備の為、キッチンに立っていると、仕事から帰って来たユウジに


「ええねん、ええねん!夕飯は俺が作ったるから、美香は大人しく座っとき!」


強引に椅子に座らされてしまった為、時間を持て余してしまった。椅子に座りながら、大分大きくなったお腹を撫でる。

ユウジと結婚して授かった子ーーとても愛おしい我が子だ。


「美香ー。胡椒どこや?」

「2番目の調味料の引き出しに入ってない?」

「おー、あったわ。あと、小皿がないねんけど」

「上の戸棚の左側にあると思うよ」

「あった、あった。ついでにスプーンどこや?」

「それは、手前の引き出しに入ってるよ」


帰って来たスーツ姿のまま、キッチンであたふたしているユウジを微笑ましく見つめる。
私のお腹が大きくなるにつれて、ユウジは早く帰って来てくれたり、家事を手伝ってくれるようになった。なるべくなら、仕事で疲れて帰って来るユウジの為に、家事は私がやりたいのに、それを止めるのはユウジだった。


「あかんな……なにがどこにあるんかさっぱりわからん。家事は美香に任せっきりやったからな。…すまん」


お皿と箸を準備しながら、ユウジは肩を落としていた。


「ううん、そんなことないよ。家事は私のお仕事だからね」

「いや、あかん。今は育児男子とか増えとるしな。俺も子育てとかしたいわ」


まさかあのユウジから「子育てがしたい」なんて聞けるとは思っていなかったから、驚いてしまった。けど、なんだかおかしくて笑ってしまった。


「今の笑うとこやないねんけど。俺は本気やで!」

「ごめんごめん。うん、嬉しい。2人で子育てしよう」


ユウジは、嬉しそうにおん!と頷くと、そっと私の傍に来てお腹に手を当てた。


「大きなったな。もう産まれるん?」


ちらりと壁にかけられたカレンダーを見ると、ユウジがつけてくれた赤丸が真っ先に目に入った。


「もう少しで予定日だね。どうだろう?たまに動いてる感じはするんだけど」

「う、動いとるん!?痛ないか?辛ないか?」

「痛くはないけど、体が重いかな?やっぱり、もう一人自分の中に抱えてる感じがする」


まだ慣れない妊婦の感覚をユウジは感慨深そうに聞いてくれていた。


「ほんまに、ここにおるんやな」


手を当てていたお腹を確認するようにゆっくり撫でられる。


「うん。私とユウジの子だよ」

「まだ信じられへんわ。産まれてくるまで信じてへんかもしれん」

「えー?もう、ユウジったら」


くすくす笑っていると、立っていたユウジがしゃがんで私のお腹に顔を近付けた。


「おーい。早う産まれて来いよー。…ほんまに聞こえてんかな?」

「聞こえてると思うよ。今、少し動いたもん」

「ほんまか!?」


目を輝かせたユウジは、興奮した様子でお腹に耳を当てた。


「おーい。オトンやでー」

「ふふっ…オカンやでー」


私もマネをしてお腹に呼びかけてみる。
信じられないと言って置きながら、ユウジが既に良いお父さんに見えて、私は微笑んだ。

そんな何気ない時間が愛おしくて、温かくて、胸が締めつけられる。お腹に置かれた左手に自分の左手を重ねると、カチンとお互いのリングも重なった。


「美香…」


名前を呼ばれて、自分の目から涙が零れていることに気付いた。優しい指先に拭われたが、その優しさを感じる度に涙は溢れるばかり。


「ユウジ……私、幸せ」

「当たり前や。俺だって、幸せなんやから」


引き寄せられた頭をユウジの胸に預ける。
ああ、そうか……こういうのを『幸せ』って言うんだ。
ぶっきらぼうでも優しい、手先は器用でも不器用なユウジが大好きだ。この人と結婚出来て、一氏美香になれてよかったと心から思う。

もしもし、お腹の中の赤ちゃん。
お父さんもお母さんもあなたに会えるのをとても楽しみにしているよ。
早く私達の元へ産まれて来てね。

私達のこの声は、あなたに聞こえていますか?



fin.

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