テニスの王子様

□一氏先輩の指に恋してる
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「ユウジ先輩ー。紅茶と緑茶どっちがいいですか?」


お盆を持ちながら部屋を覗くと、数分前までなにやらノートとにらめっこしていたユウジ先輩がとうとう伏せってしまっていた。

折角、クッキー持ってきたのに…と肩を落とし隣に座る。ふと、ユウジ先輩の下敷きになっているノートに目を向けると、そこにはユウジ先輩の字でたくさんの書き込みがされていた。これはユウジ先輩のネタ帳だ。
家が近所で彼氏のユウジ先輩は、ネタに息詰まるとたまにこうして私の部屋に来ては考え込む。私はネタが息詰まっていたとしても、来てくれることが嬉しかった。年下で頼りないかも知れないけど、少しでも力になりたかった。


「…ん……こは、る……」


ユウジ先輩が身じろいだ。
夢の中でも小春先輩のことを考えているのだろうか。少し…いや、かなり小春先輩が羨ましい。
隣に座って、伏せるユウジ先輩を見つめていた時、つい目の前に出されているユウジ先輩の指に目がついた。


「うわー……綺麗」


今まで全く気にもしなかったが、思わず声が出てしまう程、ユウジ先輩の指は綺麗だった。すらりと細くて、長くて、縦爪で……自分の短くてむくむくした指と見比べると、羨ましい所か虚しくなってくる。
今までこの指で撫でられ、触れられていたことを思い出すと、途端に恥ずかしくなってしまった。


「ユウジ先輩のくせに……」


恥ずかしさを紛らわせるように、ユウジ先輩の右手の一番長い中指を摘んでみた。小さく上下させて遊んでみるも、起きる気配はない。今度は、そっと手の平を開いて私と合わせてみると、私の指はユウジ先輩の指の第一関節にも満たなかった。手が大きいというより、やはりこの人は指が長いんだ。

しばらく頬杖をついて、ユウジ先輩の右指5本を弄っていると、見れば見る程綺麗に見えた。これもユウジ先輩の一部だと思うと、次第に愛おしくてたまらなくなって、もっとこの指で触れて欲しい、撫でて欲しいと思った。


「…ユウジ先輩」


小さく名前を囁いて顔をそっと近付けると、まずはもちろん中指にキスをした。ピクッと中指が動いて一瞬どきりとしたが、ユウジ先輩は起きてはいなかった。それに安心して、次に人差し指、薬指と唇に触れさせていった時


「うわぁ!」


突然、至近距離でユウジ先輩の瞳がカッと見開き、私は物凄い勢いで後退りした。ただ口をぱくぱくさせていると、ユウジ先輩はむくりと起き上がり、半開きの目で私を見ていた。


「なななななっ……い、いつから起きてたんですか!」

「ユウジ先輩のくせに…」


わざわざ私のマネして言うことないじゃない!と言うか、随分前から起きてたんじゃん!
今までの全ての行為がバレていたことを知り、顔から火が出る思いだった。そんな私の気も知らず、ユウジ先輩は自分の手を見つめて、指を折ったり伸ばしたりを繰り返し


「自分、そういう趣味やったん」

「ち、違いますよ!ただ…」


言うのを躊躇っている私を「ただ?」と促す。さすがに面と向かって言うのは恥ずかしかったから、わざとあらぬ方向に目を向けた。


「…ユウジ先輩の指が、あまりにも綺麗だったから」

「は?」

「は!?」

口をあんぐり開けていたユウジ先輩は、もう一度自分の手に目を向けた。


「俺ん指が、綺麗……?」


いまいちピンとこないのか、首を傾げながらまじまじと指を見つめる。


「そんなん初めて言われたわ」

「初めて言いましたもん」

「だから食おうとしてたんや」

「た、食べようとなんてしてませんよ!」

「俺ん指食うても美味ないで。ほれ、これでも食うとれ」


言い返そうとした私の前に、持って来ておいたクッキーが差し出された。条件反射で口を開くと、ユウジ先輩はその指で私の口の中にクッキーを入れた。
あの指に食べさせて貰ってしまった!とニヤける顔を隠したつもりだったが、観察力のあるユウジ先輩にはお見通しのようだった。


「そなに好きかい。俺ん指」

「べ、別に好きって言う訳では…」


そう言おうとした瞬間、頬を少しひんやりとしたものに撫でられて、体がびっくりした。すぐにユウジ先輩の指だとわかると、頬は益々熱くなった。そんな私を確かめるように、ユウジ先輩は長い指を何度も往復させて、頬を撫でた。その手つきに全身に鳥肌が立ち、心臓はバクバク言った。


「どうや?美香」

「…す、好きです。ユウジ先輩の指」


まるで言わされたみたいだ。
頬に添えられた手を両手でそっと包むと、もう胸がいっぱいだった。初めて気付いた。私は、ユウジ先輩が大好きだけど、同じくらいユウジ先輩の指も好きなんだと。


「ユウジ先輩、好きです」


一番好きな中指にそっとキスをする。
私は、ユウジ先輩の指に恋をしているんだ。



fin.

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