テニスの王子様

□不器用な一氏くんの繋ぎ方
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辺りが薄暗くなり部活が終わる頃、いつも通り校門の前で一氏くんを待っていると


「ほな、また明日な♡」

「小春ぅ〜帰ってまうんか…一緒に帰ろうや」


帰ろうとする金色くんの腕にしがみつきながら、待ち人である一氏くんがやって来た。

付き合う前から一氏くんが金色くんと仲が良いことは知っていたし、それを承知で告白もして付き合えることになった。


「何言うてんの。ユウくんには、帰る子おるやないの」


金色くんが2人の様子を伺っていた私にチラリと目を向けると、一氏くんは薄暗くてもわかる程眉間にしわを寄せた。


「ちゃんと送ってあげるんやで」

「………」


帰って行く金色くんの背中を名残惜しそうに、いつまでも見つめている一氏くんに声をかけていいものか迷った。

私は、金色くんの次でもよかった。

なのに、付き合ってからというもの、それが段々自分の中で影を作るようになってしまっていた。


「……一氏くん」


意を決して声をかけると、一氏くんはハッとして「帰るか」と歩き出した。
その横に私も並び


「部活、お疲れ様」

「おう。おおきに」


持っていたペットボトルのスポーツドリンクを手渡すと、一氏くんは少し驚いてから受け取ってくれた。

少し汗の残る横顔は、見惚れてしまう程格好良かった。文化部の私は、そんな一氏くんに憧れ、好意を抱き、恋人になれた。

でも、すぐ隣を歩いているのに、恋人というには遠く寂しい距離。

私は、自然と手を伸ばしていた。
そっと左手を一氏くんの右手に伸ばし、つんと指が触れた時


「な、なんやねん!」


勢い良く手を引っ込められてしまった。
思った以上に強く拒否され、どうしていいのかわからず目を泳がせた。

付き合ってから、必要以上に触れようとしない一氏くん。
例え、触れたくても触れて欲しくても口にすることは出来なかったが、本当はーー


「……あ、あの…手、繋ぎたい……」

「なんで繋がなあかんねん」


本当は、手を握って欲しくて、抱きしめて欲しくて、もっと恋人みたいなことたくさんしたかったんだよ。

わかっていたはずなのに、きっと心のどこかでは、付き合ったら変わると思っていたのかもしれない。
そんな訳ないのに…一氏くんの一番は、金色くんなのに。


「……ごめん」


潤んだ目を見られたくなくて俯いて、歩く速度を落とした。

いくら心が落ち込んでも、一氏くんが好きだった。
好きだから離れたくない。例え、一氏くんの好きな人が私でなくても。


「あー…わかったわ!繋げばええんやろ!」


だんだん離れて行く私に気付き振り返ると、一氏くんはイライラしたように言い、顔を背けて手を差し出してきた。


「ほれ!繋ぎたいんやろ」

「…でも、」

「焦れったいわ!」

「……!」


本当に繋いでいいものか、目を泳がせてもじもじしていると、痺れを切らした一氏くんが乱暴に私の手を引っ張った。
そして、そのまま握られるかと思われた手の指一本一本にひんやりとした指が丁寧に絡められた。


「ひ、一氏くん…!あの…」


所謂、恋人繋ぎに言い出しっぺの私がドキドキしてしまう。
少し小走りで一氏くんの顔を見ようとしたが、顔を完全に車道側に向けられ見えない。


「なんやねん。なんか文句あるか!」


でも、痛いくらいしっかりと握られた手が私と同じくらい温かかったから、気持ちが伝わってしまったから、私はこっそり微笑んで、腕に体を寄せた。

いつの間にか私達は、同じ速度で、同じ歩幅で歩いていた。



fin.

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