テニスの王子様

□財前くんと本気の恋
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とうとう一日経っても、財前くんは別れを切り出さなかった。
もう呆れられてしまったと思って覚悟も決めていたのに、朝は迎えに来て手も繋いでくれたし、昼はお弁当を平らげてくれた。
昨日あんなことがあったから、会うのがとても怖かった。けど、どんな状況であっても、財前くんと一緒にいられる時間は幸せだった。
それが最後なら、尚更笑って過ごしたい。そう思っていた時


「家、寄ってくやろ?」


一瞬、昨日の出来事がフラッシュバックしてきて緊張したけれど、呼んで貰えた嬉しさともしかしたらこれが最後のチャンスかもしれないと思う気持ちでいっぱいだった。


「うん…行きたい…!」


力一杯頷いて昨日のように部屋に入る。
頭ではわかっていても、やはり体は緊張しているようだった。

心を落ち着かせて財前くんを振り返った時


「あ……!」


また、ベッドに勢い良く押し倒された。
でも、両手を抑えて、上から私を見てくる財前くんの表情が昨日とは違って見えた。
何と言うか、昨日のような恐怖はなく代わりに………切なさを感じた。


「財前くん…?」

「自分、アホなんちゃう。なんで来た」


窓から差し込んできた夕日が財前くんのピアスに反射していて眩しい。
それでも、表情が見たくて必死に目を開くと


「嫌いなら来んなや。嫌なら我慢せんと言えばええやろ」


苦しそうに眉間に皺を寄せる財前くん。
始めは、何を言われているのかわからなかったが、必死に頭を働かせて、昨日のことだと気付いた。


「嫌じゃないよ。財前くんのこと好きだもん」


そう笑うと、驚いた財前くんは呆れて目をそらせた。


「アホか」

「うん…アホかも。財前くんに嫌われたと思ったのに、それでもまだこんなに好きなの」


思わず、アホだよねと笑ってしまう。
ぽろりと出てきた本音は、心を軽くした。今まで塞き止めていた何かが外れて、気持ちが流れていた。

もう愛想を尽かしてしまった財前くんは、私を見つめ直し


「そんなん……俺かて同じやわ」


優しくキスを落とした。

その、今までにない優しいキスに心臓が跳ね上がった。まるで思いが通じ合ったような、好き合っているようなキス。


「ほんま、自分には敵わん」


「財前くん……?」


困ったように眉を下げて口角を上げる。
初めて見た財前くんの笑みに目が離せなかった。


「こんな気持ちなったの、初めてや」


今、財前くんに言われた言葉を必死に頭の中で変換する。
初めて聞いた情熱的な言葉が私の胸を焦がす。


「それって……」

「あんた……美香のことが好き言うことや」


美香、と初めて名前を呼ばれて、決して言われることはなかった好き、という言葉をかけられて、胸がもういっぱいいっぱいになって、熱いものがふつふつと湧き上がってきた。


「わ、たしも財前くんが好き」

「知っとる」


その笑顔は、反則だ。

そんな風に笑われて、抱きしめられたらもう何も言えない。


「美香、すまん」


私もごめんね、という言葉は遮られた。
ちゅ、と軽くキスをされると、湧き上がってきていた思いが目から雫となって零れた。

もうなにも怖くない。だって、こんなに優しいのだからーー

でも、財前くんは私を抱きしめたまま起き上がった。
心の準備をしていた私から、え?と間抜けな声が出た。


「財前くん……あの、しない…の…?」

「せん」

「…わ、私は大丈夫だよ…?」


ー処女は面倒やねん

昨日の言葉が脳裏を掠め、不安な顔で見つめると


「大事にしたいねん」

「え…?面倒じゃ、ないの…?」

「…面倒やない。好きな奴が初めて言うんに嬉しない訳ない」


せやから、と一息置いて手を私の頬に伸ばし


「自分のこと大事にしたる。俺、本気やから」


もう、それ以上言葉はいらない。

私は財前くんに勢い良く飛びつき、力強く、今までにないくらい優しく抱きしめられた。



fin.
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