テニスの王子様
□財前くんと本気の恋
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ー財前くん、付き合って下さい!
駄目元で、学年一モテる男子ーー財前 光くんに告白した。
いつも無表情で何を考えているかわからない財前くんだが、彼女は絶やさないことで有名だった。
しかもその彼女もかなりの美人ばかり。なのに、一ヶ月と持たず別れを切り出すのは財前くん。
つい昨日、別れたと一早く耳にした私は、朝のHR前に財前くんを呼び出した。
財前くんは、絶対好きにならない。
暇だから付き合う。
飽きっぽくて、そんな彼と付き合うなんて夢のまた夢だと思うけれど
ーええよ
まさか、そんな答えが返ってくるなんて思ってもみなくて、思わず飛び上がって喜んでしまった。
ーそなに嬉しいん?自分変わってるわ
財前くんは、付き合っても態度は何も変わらなかった。
けど、一緒に帰って、手を繋いでくれたり、抱きしめてくれたり、キスしてくれたり、それだけで私は幸せだった。
だから私も少しでも喜んで欲しくて下手でもお弁当を作ったり、釣り合いたくておしゃれをしたり…。
たとえ好きじゃなくても、遊びで付き合ってくれているとしてもそれでよかった。
そんなこんなで、財前くんと付き合って一週間がたったある日。
事態は起こった。
「きゃっ……ざ、財前くん…!」
放課後に財前くんの部屋に呼ばれた私は、いつものようになんの警戒もなく入った。が、今日はそれが失敗だった。
見慣れた部屋に入った途端、乱暴にベッドに押し倒されてしまったから。
「なんや。もう、一週間しとらんねんで」
もちろん、言葉の意味はわかった。
けど、初めてだった私は付き合って一週間で体を重ねるという早さと財前くんの醸し出す雰囲気に恐怖を感じていた。
「……あ……や、いや……!」
だから、大好きな財前くんの顔が近付いてきた時、思わず突き放してしまった。
はっとした。
拒んでしまった。嫌われてしまう。捨てられてしまう。
「自分、初めてなん?」
憐れんだような財前くんの表情に焦って首を振るが体は正直で、ただ首筋を撫でられただけでもビクリと震えた。
「嘘つくなや」
「財前、くん……」
冷たく言い放つと、財前くんは私の上から退いた。
私もベッドから起き上がり、後ろ向きで机の椅子に座っている財前くんに呼びかけた。
「あ、あの……ごめんね……びっくりしちゃっただけだから……」
「もう帰れや」
言葉を遮って、絶望的な言葉を投げられた。
先程とは違う恐怖が体を包み、背中を冷や汗が流れた。
「財前くん……!ご、めんね……ごめんね……大丈夫だから……!し、しよう…?私、財前くんと…したい」
嫌だ…嫌だ。嫌われたくない。
その一心で、私は震えた声で泣きついた。
でも財前くんは、全くこっちを見てはくれなくて、ただ背を向けている。
そして
「うっさいわ。処女は面倒やねん」
投げつけられた言葉は、私の中のガラスを粉々にした。
それ以上、財前くんも私も何も言わなくて、私は覚束無い足取りで財前くんの家を出た。
外に出ると、真っ赤な沈みそうな夕日が滲んで見えた。
足は動いているのに頭は、心は空っぽで、自然と涙が流れ続けていた。
きっと明日…いや、今晩にでも別れを切り出されるだろう。
あの時、拒んでいなければ…私が処女でなければ……そんな後悔ばかりがいつまでも胸に渦を巻いていた。