テニスの王子様

□謙也くんのライバル
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「わぁ…可愛い!あ、こっちの子も可愛い!この子も!あの子も!ん〜どうしよう…」


美香は、店内を忙しく動き回りながら一匹一匹手に取っては戻し、手に取っては戻しを繰り返す。

今日は、美香の希望でペットショップに来とる。

なんでも犬を飼いたいらしい…。

家には俺と美香の二人暮らしやし、必要ないと思うんやけど…飼っちゃだめ?なんて上目遣いで言われたら、だめ言えるわけないやん!


「可愛い!みんな可愛いから決められないよ……謙也!」

「そうやな…あ、こっちのダルメシアンなんかええんやないか?」


俺が白と黒のブチ模様の犬を指差しても、ん〜…とあまりお気に召さんよう。


「んじゃ、このチワワは?」


これも、ん〜…。


「あのね…私、このゴールデンレトリバーか柴犬がいいなって思って…」


おずおずとその二匹を指差した美香の横顔は、なぜかほんのり赤かった。


「…すまん。美香、こういう犬が好きやんな」

「…う、うんっ」


え?なんでそこで照れるん!?
いや、可愛ええからええんやけど…

そんな美香は、もう一度二匹を抱き上げてじっと目線を合わせる。


「美香?」


相当集中しとるんか、俺の声も聞こえてへんようや。
ずっと柴犬と見つめ合ったまま動かん。

なんか悔しくて、美香の首筋を指でちょん、と触れると体がびくりとした。


「け、謙也…!」

「決まったん?」


なるべく平静を装う。

犬に嫉妬なんて格好悪いやん…。

すると美香は、徐に俺と手に持った柴犬の顔を交互に見比べ


「うん!やっぱりこの子にする!」


と言って、胸に抱いた。

心なしか、その柴犬も選ばれたことに優越感を感じとるような気がした。


「柴犬か、可愛ええやん」


俺が笑うと、美香も満足そうに笑い、お決まりですか、と近付いて来た店員に二人で頷いた。




柴犬を家に連れ帰ると、すぐさまじゃれ合い始める美香。

これは賑やかになるな、なんて思いながら、俺は重要なことに気付いた。


「美香、名前決めてやらな!こいつはオスやからな、格好ええ名前がええよな!」


ゴンタとか、サブローとかな!

俺の方が楽しそうに名前候補を上げとると、美香は言いにくそうに顔を赤らめて


「えっと…もう、決まってるんだけど…」

「え!そうやったん?なになに、どんな名前なん?もちろん俺みたいなイケてる名前なんやろな?」


なんて、いつもの冗談のつもりやった。

でも、美香は笑うと言うより益々照れ


「…そうだよ」

「え?」

「この子の名前…ケンヤにしようと思って…」


次の瞬間、腹の底から声を上げた。


「ま、まじか!?え、なんでや?」


美香は、柴犬をそっと抱きしめ愛おしそうに撫でると、


「謙也がお仕事でいない時とかでも傍にいてくれてるような気がするから…」

「もしかして、だから犬飼いたいって言うたん?」

「うん…なるべく謙也に似てる子がいいなって思って…ごめんね」


これで辻褄が合った。

確かに美香の最終候補に残った二匹は、なんとなくやけど俺っぽいのかもしれん。

なんや…寂しい思いさせてもうてたんや。それにも気付いてやれんなんて、旦那失格や。


「美香が謝ることない。俺こそ寂しい思いさせててすまんな」


そう言って美香を抱きしめると、柴犬…ケンヤが邪魔せんようにとでも言うようにぴょんっと腕の中から出て行った。


「謙也、嫌じゃない…?」

「嫌やないで。ほんまは俺が傍にいてやりたいけど、いない時はケンヤが美香を守ったるから。でも帰ったら、こっちの謙也のやけどな」

「ふふっ…謙也」


嬉しそうに身を委ねてくる美香がほんまに愛おしい。
体は抱き合ったまま、至近距離で見つめ合っとった瞳がお互い閉じられ、顔を引き寄せ合い


「わん、わん!」


唇が重なると思われた瞬間、いつの間にか戻って来とったケンヤが俺達の間で吠えて、美香の足に擦り寄った。


「ケンヤどうしたの?遊んで欲しいの?」


そいつを抱き上げて膝の上に置くと、ケンヤは安心したようにそこに居座った。

おい、そこは俺の場所やで!

そんな俺の気持ちも知らん顔の柴犬ーーケンヤ。
こいつは俺の最大のライバルやな、とため息をついた。



fin.

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