イナズマイレブン

□桜色の、
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俺は、桜が嫌いだ。




「ご卒業おめでとうございます!」

グランドにサッカー部員達の、涙で籠もった声が響いた。

何せ今日は、俺達にとっては2回目の卒業式。
つまり――霧野先輩達の卒業式なのだ。

「…俺、うっ…神童キャプテンみたいに…頑張ります…!」

「天馬。もう俺がキャプテンじゃないだろ?お前なら、チームを引っ張って行けるから、お前らしく頑張れ」

「…神童、先輩…」

「信助!雷門のゴールは頼んだぞ」

「…僕…僕も頑張りますぅ…」

新1年生も入部した中、サッカー部の送別会が行われた。

互いが別れの言葉を交わし、涙を流し合う。

そんな心温まる雰囲気にいずらくなり、一通り挨拶し終わった俺は、ふらりと桜の下にやって来る。

見上げると、空が桜色に染まっていて、何故か俺の胸を締め付けた。

だから桜は嫌いなんだよ。

俺は、この景色を綺麗だとは思えない。

「狩屋」

振り返ると、桜色の髪をした先輩が立っていた。

俺は、すぐに顔を桜に戻すが、先輩の姿が目に焼き付いて消えない。

「何ですか。俺に言いたいことでもあるんですか」

こういう時、自分の性格が憎らしい。
言えたらいいのに、素直になれたらいいのに…

「言うことはない。ただ――」

素っ気なく言った先輩は、自分の制服の2番目のボタンを引きちぎり、差し出して来た。

「やる」

は?と言いつつも、それに手を伸ばしてしまうのは、ある意味素直だ。

だけど、いくら手を伸ばしても届かないところへ行ってしまう前に、届くうちに、掴んでおきたい。

その背中が見えなくなる前に、見えるうちに、全力で走って追いついておきたい。

「霧野先輩…」

行ってしまう先輩から目を背けても、俺の目に先輩は映っていた。

「………っ」

涙が出るのは、悲しいからじゃない。

胸が痛いんだ。

痛くて痛くて、押し潰されそうなんだ。

ありがとうございました、何て言わない。言うもんか。



俺は、桜が嫌いだ。



桜色の、
あんたを思い出すから




            fin.

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