イナズマイレブン

□allegroな音色
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放課後の音楽室に響く、優雅なピアノの音。
五線譜に並んだ音符達をいとも簡単に音色にしていく神童の指を、俺はただただじっと見つめる。

神童は小さい頃からピアノをやっていて、数々のコンクールで優勝している実力者だ。

ピアノもサッカーと同じくらい上手くて、勉強も出来て…
俺なんかとは全然違う。
だからたまに思うんだ。


俺は神童の幼なじみとして、釣り合っていないんじゃないかって――


「霧野?」

「え…」

呼ばれて我に返ると、ピアノの音はいつの間にか止んでいて、神童が心配そうに顔を覗き込んでいた。

「疲れてるのに付き合わせて、悪い…もう、帰ろうか」

「ちょ、ちょっと待てよ!俺は大丈夫だから、明日は本番だろ?今日はお前が納得するまでやろうぜ!」

立ち上がった神童の腕を掴んで引き止める。

コンクールの前日には、最後の追い込みで遅くまで練習していることを知っていたし、何より俺が神童のピアノを聞いていたかったから。


「霧野…」

「…わっ!」

神童は急にそんな俺の腕を強く引くと、自分が座っていた椅子へ俺を座らせ、自分はその背後に回った。

「し、神童…」

「弾いてみろよ」

「でも俺、神童みたいには…」

「霧野のでいいんだよ」

「俺、の…?」

「霧野の耳で音を聞いて、霧野の目で楽譜をよんで、霧野の指で音色を奏でればいい」

すぐ背中に神童を感じ、心臓は心地よいリズムをとっていた。

緊張で微かに震える俺の右手に、そっと神童の右手が重ねられる。

「霧野、力抜いて」

囁かれた後、指がゆっくりと動かされ、あの名曲が奏でられる。

俺が弾いているんじゃないのに、錯覚してしまいそうになる程自分の指は自然に音色を奏でていた。

それは神童がリードし、しかししっかりと俺の動きを読み、合わせてくれているから。

俺も分かる。
次、神童がどう動くのか。

だってずっと見ていたから、聞いていたから――



「霧野…っ」

静かに終止符がうたれた瞬間、がばっと首に回された腕に、終わったはずの音がまた鳴り出した。

「神童…?」

「明日は、お前の為に弾くから。だから…見に来てくれないか?」


俺の為に――


あの広い会場で、大勢の客に弾く音色を俺だけに…?


その言葉は唐突だったが、考えずとも答えは、何年も前から決まっていた。


「もちろん行くさ。ありがとう、神童」


嬉しくて、嬉しすぎて、俺は神童に背中を預けた。

すると聞こえる。
俺と同じ速度で刻まれる音。


それは、誰にも奏でられない。
俺だけが独り占め出来る音色だった。




            fin.

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