イナズマイレブン
□ふたりの方程式
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「7x+4y=3の解は…
って、霧野先輩聞いてます?」
夕焼け色に染まる放課後の教室で、俺は珍しく勉強をしていた。
別に勉強したい訳じゃないけど、今日みたいに部活がない日はすぐに帰ってしまうのが惜しいから。
「霧野先輩」
「…………」
「…ふっ」
「うわっ!」
いくら声をかけても、机に頬杖をついている霧野先輩の左耳に息を吹きかけると、ビクッとして耳を抑えた。
「感じちゃいました?」
「違う!くすぐったいだろうが!」
「だってこうでもしないと、こっち向いてくれそうもなかったんですよ。
何考えてたんですか?」
何となく予想はついたけど、一応聞いてみる。
「あ―…悪い。何でもないから」
「神童先輩のことですか」
「………!」
「図星だ」
本当この人はわかりやすい。
だから、わかりたくないことまでわかっちゃうじゃないか。
「…最近の神童、頑張り過ぎだと思わないか?神童は昔から責任感が強くて、何でも1人で抱え込んで、大丈夫じゃなくても大丈夫だって言って、無理をするんだ。けど俺は、それを分かっていても、何をしてやればいいのか分からなくて…」
「…………」
何だ、コレ…?
俺の中に芽生えた自分でも分からない感情。
言葉に出来ない気持ちが唇を重ねる行為となり表れた。
「かり、や…」
驚いて逃げようとする霧野先輩の体を、しっかりと壁に押し付ける。
「…ん」
「や…めっ…」
勢いで倒れた椅子も、転がったシャーペンもそのままに続け、やっと唇を離した時には、2人とも肩で息をしていた。
「何、すんだよ…!」
「俺といても霧野先輩の頭の中は、神童先輩のことばっかりなんですね」
「え…」
自分が思ってたよりその声は、悲痛なものになっていた。
霧野先輩は気付いただろうか?
「xとyって、先輩と俺に似てません?」
「は…?」
そんな自分が恥ずかしくなって、唐突に話を逸らすと、深緑の瞳が大きくなった。
「結局=を挟んで分けられて…だから俺、この方程式嫌いなんです」
「…俺が、教えてやるよ」
「え…」
俺の言葉の意味を分かっているのか、いないのか。
まっすぐに見つめてくる深緑の瞳は、俺を誘っていた――
その誘いに乗った俺は、にやりと含んだ笑いを滲ませ、制服のボタンに手をかけた。
「かり…」
「勉強じゃなくて、もっと違うこと教えて貰いますよ」
こうすることでしか、気を引けない。
無理やりに=を飛び越えようとする答えは、間違いだとわかってはいるが
それでも飛び越えて、俺はあなたの元へ行く。
神童先輩なんて飛び越えて
俺たちに方程式なんてないのだから
fin.