イナズマイレブン

□夕暮れ快走
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「あれ?霧野先輩って、チャリ通でしたっけ?」

いつも通り練習を終えた帰り道だったが、この日は霧野先輩が自転車を引っ張っていたため、聞かずにはいられなかった

「今日だけだ!遅刻しそうだったから…」

「へぇ、真面目な霧野先輩でも遅刻とかするんですね」

「お前…馬鹿にしてるだろ?」

「そんなことないですよ〜。可愛いなって思っただけです」

「さっさと帰るぞ」

呆れたように足を速める霧野先輩を慌てて追いかけた

「ちょっと待ってください!
折角ですから、霧野先輩を乗せて俺が漕ぎますよ」

「は?
お前のそんな細い腕じゃ、支えきれないだろ」

「大丈夫です!甘く見ないでくださいよ!」

「ダメだ。怪我でもしたらどうするんだ」

「大丈夫ですって!」

俺は本気なのに、霧野先輩は自転車を離そうとしない

それでもなかなか退かない俺を見かねると、ため息をついて


「俺が漕ぐよ」


「は?」


その言葉に、思わず口が半開きになった


「嫌ですよ!俺が漕ぎます!」

自分がうしろなんて絶対嫌だ!
ましてや女みたいなこの人だから更に嫌だ!


だが、俺の必死の反抗も意味なく、この日の霧野先輩は珍しく譲らなかった

だから仕方なく、俺が妥協した形で霧野先輩のうしろに跨がった

「よし、しっかり掴まってるんだぞ?」


その台詞は俺が言うはずだったのに、こういう時ばっか先輩ぶって…

爽快に漕ぎ出した霧野先輩が悔しくなって、俺は徐にその体を撫でた

「…っ、やめろ!くすぐったいだろ!」

「霧野先輩、フラフラしてますよ。しっかり漕いでください」

「お前のせいだろうが!」


沈み始めた夕日が2人の頬を赤く染めた


この人に乗せられるなんて屈辱だったけど、こういうのも悪くないかなって思った


この背中も俺のものにできるから


「明日は俺が漕ぎますからね。霧野先輩」

「仕方ないな」


風に靡いた霧野先輩の髪が俺の頬を掠めて心地いい

今日の夕暮れの帰り道は快走だった



            fin.

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