イナズマイレブン

□自慢の弟
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「1人でも大丈夫ですけど」


廊下を早歩きながら、言い放つと頭上から穏やかな声。


「そんなこと言わないで。飲み物くらいおごらせてよ」

「いえ、結構です」

「2人はコーラとかでいいのかな?」


一番近い自販機の前まで来ると、吹雪さんは俺を押しのけて、すぐに2本のコーラと缶コーヒーを買ってしまった。

軟弱に見えて、この人は時たま強引だ。

俺はそこに振り回されるばかりで


「…ありがとうございます」

「どういたしまして。今日の剣城君はやけに素直だね。優一君といるからかな?」

「……………………………」


何なんだよこの人は!


「ごめんごめん」


無言でそっぽを向いた俺を怒ったと思ったのか、笑いながら吹雪さんに頭を撫でられたが、それは違う。

俺は怒ったんじゃない。

ただ、顔を見られたくなかったから

あんたに照れた顔を


「僕の大切な人も、サッカーが出来ないんだ」


自販機の隣にある椅子に腰かけると、吹雪さんは唐突に話し始めた。


「え……その人は今も」

「もう……ボールに触れることも出来ない」


一言で、俺は察した。

その吹雪さんの大切な人は、もう…………


「僕らもよく一緒にサッカーして"2人がいれば完璧"ってまで言われてたんだ。……自慢の弟だったよ」

「弟………」


ただ唖然とするばかり。


「でもね、約束したんだ。一緒に風になろうって。だから、たとえいなくなっても、」

俺は、その話の登場人物を無意識に、兄さんと自分を重ねていた。

吹雪さんも、そのつもりで話してくれているのだろうか。


「僕が風になれば、いつでも一緒にサッカー出来るって思ってるよ」


缶コーヒーを見つめながら、昔を思い出しながら話す吹雪さんは、いつもとは違う顔をしていた。

これがこの人の素顔なのだろうか、はたまたどちらもこの人なのだろうか。

その表情から目が離せなくなり、震える声で


「それじゃあ、俺と兄さんも風になれるんですか…」


なんて聞いていた。

どうしようもないことは、わかっている。

けど俺は、


「なれるよ。一緒に、風になろうよ」


その言葉が聞きたかったのかもしれない。

密かな俺の願いが叶うということを、信じたかったのかもしれない。


「……くっ…」


嗚咽を漏らす俺を、吹雪さんはそっと抱き寄せてくれた。
その胸に顔を埋めて、俺は突き放すことをしなかった。

俺はいつか、兄さんと風になりたい。

それに、あんたとも――





自慢の弟
だから一緒に風になろうよ




            fin.
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