イナズマイレブン
□unstable heart
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「神童。不安定な、のスペルって何だっけ?」
「えっと………」
unstable heart
中間テストを一週間後に控えた、とある夜。
俺は、神童家にお邪魔して勉強をしていた。
すぐに帰るつもりが、神童の母の「蘭丸ちゃん、今日泊まっていって!その方が拓人も喜ぶから」と言うお言葉に甘えて、先程夕飯までご馳走になってしまったところ。
相変わらずの豪邸、神童家。
庶民的な俺は、神童達には何気ない部屋にいるだけでも落ち着かない。
泊まるのは初めてではないし、よく遊びにも来るが、何度来ても慣れるものではないな。
風呂から上がって部屋の扉を押すと、神童はノートを広げ、黙々と机に向かっていた。
「神童」
「わっ!」
どうやら、俺が部屋に入って来たことにすら気付いていなかったようだ。
「あ、悪い!風呂上がったよ」
「いや、気付かなくてごめんな。それじゃ、俺も入ってくるかな」
時計の針は、10時30分を指している。
神童は大きく伸びをすると、くすりと笑って、俺の髪に手を伸ばした。
「髪、まだ濡れてるぞ。風邪引くからちゃんと乾かせよ」
「あ、あぁ……」
言われ、肩にかけてあったタオルで、ガシガシと少し乱暴に頭を拭く。
精一杯の照れ隠し。
しかしそれは、神童にはお見通しで
「俺が拭いてやるよ」
ただされるがままになる俺。
後ろに伸びる髪の毛先まで丁寧に拭かれ、まるで髪の毛にも神経があるんじゃないかというくらいに、俺は緊張していた。
「こうしてると、まるで女の子みたいだな」
「なっ…神童まで!」
「悪い。あまりに霧野が可愛くてさ」
「神童………謝ってないぞ」
少し低い声で言うと、神童の手が更に優しくなった。
「ごめんな。でも俺は、霧野を女の子として見てるんじゃないぞ。霧野は昔から男っぽくてさ。泣き虫だった俺に"神童は俺が守る"って言ってくれて、俺の方が女の子みたいだって言われるくらいだったんだ」
「そうだったな。あの頃の神童は、泣き虫だったからな」
小さい仕返しとばかりに言ってやると、頭を拭いていた神童の手が両肩に乗せられた。
「けど今は、俺が霧野を守ろうって思うんだ」
え、と声を上げた時にはもう、白くてふわふわなカーペットへ押し倒されていた。
「神童…!」
「霧野。今度は俺がお前を守る番だ」
「……んっ」
重ねられた唇、昔の泣き顔からは想像もつかないくらいの神童の表情に戸惑ってしまったが
「…霧野」
「うん……いいよ、神童」
催促するようなその視線を受けて、俺の心は不安定に揺れ出した。
unstable heart
不安定な心
fin.