イナズマイレブン
□足になる
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神童は、ホーリーロード決勝戦に出られない。
そんな現実を目の前にしても俺は、まだ信じられずにいた。
今日も足は、当たり前のように病院へと向かう。
「霧野!今日も来てくれたのか。ありがとう」
すっかり見慣れてしまった白を基調とした部屋。
そこにあるベッドに横になる神童は、随分痩せたように見える。
「ちゃんと食べてるのか、神童。食べなきゃ体力つかないぜ?」
「大丈夫だ。食べてるよ」
薄ら笑いを浮かべ、ふと窓の外を見つめた神童の切り出しは唐突だった。
「もうすぐだな、決勝戦」
それは俺が、一番聞きたくなかった言葉。
「俺の分まで頑張れよ」
霧野?と、返事をしない俺の顔を神童は覗き込んで来た。
いや、返事をしなかったんじゃない。
出来なかったんだ。
その言葉が、あまりに唐突すぎて
「神童………」
何かを呟こうと唇を震わせた瞬間、頬を何かが伝った。
何かなんて考えなくてもわかっているのに、俺はそれを拭うこともせず、ただ神童を見つめるばかり。
「俺は、お前以外がキャプテンだなんて認めない。決勝戦だって、お前が一番楽しみにしてただろ…なのにっ……俺は決勝戦も、神童と一緒に戦いたいよ」
こんな我が儘、言っても仕方ないんだと思う。
だけど、言わずにはいられないんだ。
こうしてベッドの上にいる神童を見ると、決勝戦に向けて練習が行われているグラウンドを見渡して、神童がいなかったことを思い出すと。
「霧野」
「……っ」
ゆっくりと伸ばされた右手に頭を撫でられ、左手で頬を伝う溢れた思いを拭われる。
「ありがとう。俺も……悔しいよ。やっとここまで来たのに、自分が情けないよ。だけど今雷門には、三国先輩、車田先輩、天城先輩がいる。天馬、信助、剣城、狩屋、影山がいる。一乃、青山、錦、速水、浜野、倉間……そして霧野、お前がいるから俺は、こんな状態でも安心しているんだ。今の雷門ならきっと勝てるって、お前達がいれば大丈夫だって」
「神童……でも俺、お前がいなきゃ…っ」
まだ言葉を紡ごうと開いた俺の口は………塞がれた。
誰に、なんて…言わなくてもわかるだろ?
「会場には、俺も行くから。な、霧野?」
「あぁ…!」
最高に優しい言葉をかけられ、俺は気持ちのまま神童に抱きついた。
そんな俺の体は、しっかりと受け止められる。
この思いと共に
「なぁ、神童…俺がお前の」
足になる
「そしてそのまま、神童を優勝まで連れて行くから」
――そう誓った3日後。
俺達は雷門に、優勝トロフィーを持ち帰った。
fin.