うたの☆プリンスさまっ♪
□私の特等席
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待ちきれず家から出ていた私の前に、シャープな車が一台止まった。
運転席の窓から顔を覗かせたのは勿論、誰よりも愛おしい彼。
「待たせてごめんな!」
「ううん!お仕事お疲れ様」
開けられた助手席へと乗り込むと、中は翔くんの香りでいっぱいで、置いてある物もおしゃれな翔くんらしいものばかり。
でも、その中に私との思い出も確かにあることが嬉しい。
するとドアを閉めた瞬間、運転席から逞しい腕に引き寄せられてしまった。
「しょ、翔くん……!」
「車内ならいいだろ?…早くお前に会いたくて、抱きしめたくてさ」
「私も…、会いたかった…」
「花…キス、しようぜ」
「うん………」
私達は、久し振りに唇を重ね合わせた。
久し振りすぎて、あまりの翔くんの唇の、舌の熱さに驚いてしまう程。
ずっと翔くんは仕事で忙しくて、なかなか会える時間がつくれなかった。
今日も疲れているはずなのに、
早く終わったから
出かけようぜ!
と、メールをくれて、こうして迎えに来てくれた。
勿論私も会いたい。
僅かな時間だって会いたい。
だけど今まで、わがままを言うまいと何度も打ったメールを消し、ダイアルを回しかけていた。
そんな時は決まって
着信:翔くん
よう!寂しくねぇか?
「…はぁ……ずっとこうしてんのもいいけどさ、今日は花と行きたい場所があるんだ」
「行きたい場所?」
名残惜しく体を離すと、翔くんはハンドルを握りアクセルを踏んだ。
どこまでも優しい翔くん。
車酔いしやすい私のために、そっと運転してくれているのが乗っていてわかる。
だって、翔くんの運転する車だけは気持ち悪くならないから。
「………………………」
そわそわする私。
翔くんの運転する姿には今だ慣れない。
ハンドルを器用に回す手や真っ直ぐ前を見る真剣な眼差し…
その横顔にいつも見惚れてしまう。
そう、ここは
私の特等席
「ん?」
「!!」
不意にちらりと向けられた彼の横目と合う。
「何、ニヤニヤしてんだよ。変態」
「ち、違うよ!運転する翔くんが格好良いから……」
「なっ…///」
「翔くん!前、前!」
驚いて私の方に顔を向けた瞬間、目の前の信号が赤に変わり、翔くんは焦ってブレーキを踏んだ。
「危ねぇ―…ごめんな、いきなり。大丈夫か?」
「うん!私の方こそ、変なこと言ってごめんね…」
視線を感じ顔を上げると、翔くんがじっと私を見つめていた。
確実に大人びたその瞳で
「変なこと、もう1回言って」
「え?」
「運転する俺が、何?」
「…っ///」
膝の上に置いた手をそっと握られる。
私の顔が赤信号のように染まっている。
恥ずかしいのに、真剣な翔くんの瞳から目が離せない。
「…運転する翔くん、すごく格好良い…」
言葉半ばで距離が縮められる。
青信号に変わっても私達は、後ろからクラクションを鳴らされるまで、唇を重ねていた。
「花」
しばらく車で走っていると、不意に名前を呼ばれた。
そして、誓うように
「そこに乗せるのは、お前だけだからな」
銀色の輪が光る左手で、同じ光を宿した私の手を握ってくれる。
手を重ね合い、車は長く続く道をどこまでも走って行った。