うたの☆プリンスさまっ♪

□魅惑の赤
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「藍くん、ごめんね…!」


花が息を切らせて現れた時には既に、時計塔の針は6時を回っていた。


「遅い。何時に待ち合わせだったっけ?」

「…6時、です」

「今は何時?」

「7時です…」

「一時間の遅刻の理由は?」


肩を縮こめて俯いている花に容赦なく聞く。

この業界で遅刻なんて、一番許されない。


「色々、準備してて…ごめんなさい」


いつもより女の子らしく着飾った彼女を見れば、遅れてきた理由はわかるのだが

思わず苛めたくなる。

これ以上言ったら、泣いちゃうから止めるけど。


「もういいよ。全く、慣れてないくせにヒールなんて履いてさ。転んでも知らないからね」

「こ、転ばないよ…」


そう言って顔を見上げられた時、不意にいつもより真っ赤な唇が目に入った。


「何、これ」


思わず花の顎を持ち、その唇を仰視した。


「えっと……変、かな?初めて…塗ってみたの」


恥ずかしそうにする表情は唇よりも真っ赤で、ボクらしくもなく可愛いなと思ってしまった。

しかし唇は、唇だけは、彼女のものとは思えないくらい塗布されていた。


「似合ってない」


ただ一言言うと、その唇を口端から舐め取っていく。

独特のべっとりとした舌触りに鉛の味が口内に広がった。


「…あ、いく…んっ!」


貪りつくように赤を消していく。

こんな赤に、ボクと花を阻まれたくなかった。


「…はぁ、っ…」


ひとしきり舐めた後、花は大きく息を吐いた。


「…藍くん、何で…」

「君が悪いんだよ。似合わない口紅なんて付けてくるから」

「似合わない…よね…」


……………………………。


「きゃっ」


俯いた花の腕を引き寄せた。


「いちいち真に受けないで。言葉の文だよ」

「文……?」

「花はそのままで可愛いってこと」

「……っ///」


そうやって表情をくるくる変えるのは、君が素直な証拠だろう。

君のそういうところは嫌いじゃない。

寧ろ、


「好きだよ」

「え、え…藍くん…!?」


ほら。
そうやってすぐわかりやすい反応をする。


「顔真っ赤だけど、まだ口紅でも付けてるのかな?」

「……藍くんの意地悪」


そう言って膨らませる赤い頬にも惹かれてしまう。

いつだってボクを魅了する





魅惑の




            fin,

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