うたの☆プリンスさまっ♪

□優しさ
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翔くんは優しい。

困っている人は放って置けないし、落ち込んでいる人は持ち前の明るさで元気にしてしまうし。
みんなに優しいところやその愛されるルックスもあってか、所謂“みんなの翔”だったわけで。

それは翔くんが“私の彼氏”になっても変わることはなかった。

みんなに優しいのは翔くんの良い所だが、同時にそれは私の悩みとなっていたのだ。


優しさ



「翔くん、一緒に帰ろう」

「おう!あ、春歌もいいか?」

「え?」


思わぬ言葉に、自分でも今どんな顔をしているのか分からなかった。

ただ分かることは、笑ってはいないということ――


「一十木が帰れねぇみたいだからさ。女1人じゃ危ねぇだろ?」

「……うん」


断れるわけない。

春歌ちゃんとは仲良しだし、いい子だ。

だからダメじゃない。
ダメじゃなくて、



嫌なだけ…



翔くんを真ん中にして歩いた帰り道は、何とも言えないくらい息苦しかった。

付き合ってから随分経つけど、2人っきりで帰ったのだって数える程だ。

だって、翔くんの周りにはいつも人がいるから。



重い足取りのまま、いつも通り私の部屋に近い女子寮の前に着いた。

「花はこっちだけど、春歌は?」

「私は花ちゃんと離れてて、むこうなんです」


そう春歌ちゃんが笑うと、翔くんは何の抵抗もなくこう言った。


「じゃ、お前もそっちまで送ってやるよ」

「え!いえ、翔くんにそんな…」

「気にすんなって!」


翔くんは優しい。

優し過ぎるよ……………
優し過ぎて、辛いよ……

咄嗟に私は、おやすみと背を向けた翔くんの裾を掴んでいた。

翔くんと、それに春歌ちゃんも驚きで足を止め振り返る。


「…花?」


ずっと俯く私。
その空気を察してか、春歌ちゃんは「やっぱり大丈夫ですよ。ありがとうございます」と言って、闇の中へ消えてしまった。

2人っきりの静寂。

それは私が待ち望んでいたことなのに、今は苦しい。


「花…どうした?」

「行かないで、翔くん…」


やっとそう呟いた私に、翔くんはまっすぐ向き直り手を握ってくれた。


「どこにも行かねぇよ」


途端、私の目から涙が零れ思わず翔くんに縋りついてしまった。

それでも翔くんは、そんな私を抱きとめてくれる。


「翔くんは、みんなに優しいから…私、本当に翔くんの彼女でいいのかなって思っちゃう…」


ずっと言えなかったことが今、翔くんの優しさに触れ溢れた。


「花…ごめん。不安にさせちまってたんだな……俺はいつだって花のことが頭から離れねぇよ。俺の彼女はお前だけだからな!」

「翔くん…!」


嬉しくて、嬉しくて…今度は力一杯抱きつき


「ねぇ、翔くん。私だけの優しさを頂戴…」


言葉の意味を理解した翔くんは、一瞬見せた照れを隠し距離をつめ、唇から私だけの優しさをくれた。



それは私だけの
優しさ




            fin.

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