うたの☆プリンスさまっ♪
□a cappellaに
2ページ/2ページ
私、作曲家に向いてなかったのかな?
半日振りに外に出てみると、空は雲1つない夜空で、月星たちがこんな私を励ましてくれているようで、涙が溢れた。
これは何の涙だろう?
曲が作れなくて悔しい?
レンさんに申し訳ない?
それとも…
「!?」
不意にどこからか、歌声が聞こえてきた。
アカペラで、綺麗に透き通るように、まっすぐ歌われる。
その歌声に引き寄せられ歩いて行くと、水面に映る月明かりが反射して、彼をキラキラと照らしていた。
久し振りの彼の姿だったからかドキドキしたが、それよりも彼が今歌っている曲が私のものだということに、何とも言えない感情が溢れてくる。
しばらく見蕩れていると、歌い止めた彼と目が合った。
その憂いを含んだ眼差しに、胸が跳ねる。
「花!?」
「翔くん…!ご、ごめんね…立ち聞きするつもりじゃなかったんだけど…」
1ヶ月振りで気まずい…。
でも、私は翔くんの心意が知りたくて、怖ず怖ずと問う。
「…私の曲…」
「あ!えっと…急にお前の曲歌いたくなって、さ!ダメだよな、こういうの……悪い」
綺麗な水色の瞳が戸惑うように泳ぐ。
ばつが悪そうに俯いてしまう翔くんを前に、私の視界はどんどん歪んでいった。
「…ううん、嬉しい。翔くんが、私の曲…覚えててくれ、て…歌って、くれて…っ」
「花…っ」
この1ヶ月、幾度と込み上げてきた涙が今、熱くなって翔くんの腕の中で零れた。
「翔くん……」
「ばーか。俺様が忘れるわけねぇだろ?」
翔くん。
名前を呼ぶ度、とめどなく流れていく涙。
その時、私は気付いた。
どうして、レンさんの曲が作れなかったのかに――
「花」
一瞬強く抱きしめ、翔くんは肩を掴んでまっすぐに私を見つめた。
「好きだぜ。俺が歌えるのは、お前の曲だけだ」
「…私も、翔くんの曲しか作れないよ。…翔くんが好きだから」
言葉を言い終えると、私達は微笑み合い、どちらからともなく目を閉じた――
a cappellaに
私の曲をのせて
fin.