短編夢1
□俺だけの笑顔で
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「哉太見て!この服可愛い!」
「あー…」
「ねぇねぇ!どうかな?」
「いいんじゃね?」
「これはどう?ちょっと派手すぎるかな?」
「そうだな……」
快晴の今日、俺とマリナは街に繰り出していた。
建ち並ぶたくさんの店に駆け入ってはしゃぐマリナの姿は、まるで初めて外に出された猫のようだ。
「……………………………」
「な、何だよ…」
すると突然、そんな猫が俺を睨み付けてきた。
「哉太、適当に言ってるでしょ?」
「いやいや、適当じゃねぇよ?」
「適当だよ。さっきから私の方見てくれないし、たまに上の空だし……折角のデート、なのに…」
しゅんと見えない尻尾を下げるマリナに胸が締め付けられた。
そう。今日は、初デート。
別に一緒に出掛けるなんて初めてじゃねぇけど、そん時は決まって錫也と3人で、大体マリナの相手は錫也がしていた。
女の買い物について行けない俺は、ずっとベンチで眠りこけて、結局最後は荷物持ち。
それが定番だったから、いきなりのふたりきりの買い物に、どうしていいのか分からないんだ。
俺って、つくづく格好悪ぃ……
こんなことなら、ちゃんとマリナの買い物に付き合っておくんだった……
「あ……悪ぃ…錫也なら、マリナのこと楽しませてやれたのにな…」
思わず出た弱音は、自分でも驚く程の本音。
「どうして錫也なの?私は、哉太とだからデートしたいんだよ?哉太と一緒にいられるだけで楽しいよ?幸せだよ?だから、そんなこと言わないで……」
小さいながら、俺の手を力強く握ってくるマリナの手で気付かされた。
俺がこいつの彼氏なんだって、もうただの幼なじみじゃないんだって――
「そうだな。マリナは俺がいねぇとすぐ衝動買いするからな〜」
そう
―おい!こんなに買うのかよ!
―え!?だって決められなくなっちゃって…
―あのなー…こんな似たような服いくつもいらねぇだろ
―赤と青で迷っちゃったの…どっちも可愛かったから…
―マリナは赤!お前には、明るい色が似合うんだよ!
―そ、そうかな?
―そうだよ!青なんてお前には寒々しいだろ?
―そっか!ありがとう、哉太!
そんなこともあった。
こうして、俺の隣で笑ってくれていたのは紛れもない、俺が笑顔にさせてたからなんだよな?
「衝動買いじゃないもん…」
「衝動買いだろ。ったく、マリナが衝動買いしねぇようにずっとついててやんねぇとな!」
そう言って頭を撫でてやると、街中だというのにマリナは思い切り俺に飛びついてきた。
「お、おい!」
「哉太、大好き!」
「お、お前はこんなところで…!わかったからほ、ほら早く行くぞ!」
「うん!」
一瞬戸惑った俺だったが、その体をしっかりと受け止めると、恥ずかしさからさっさと手を引いて街を歩き出した。
俺だけの笑顔で
これからも笑ってくれ
fin.