短編夢1

□remake movie
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今日は、久し振りに予備校も休みでマリナと前から見たいと言っていた映画を見に来ている。

館内は暗くなり、もう映画は始まっている。
今人気の某恋愛映画にマリナは釘付けだ。

マリナが楽しければそれでいいと思ってきた訳だが、流石に2時間このままはキツい。眠いし…。


「……」


何となく肘置きに置かれた手を握っても、気付いていないのかマリナはオレに見向きもしない。

どんだけ映画に集中してんだよ…。

不満に思ったが、仕方なく邪魔しないようにスクリーンを見ると、丁度運悪くカップル同士の甘いシーンだった。

始めはお互い頭を撫でたり撫でられたりする程度だったものがエスカレートし、キスに発展する。


「……っ」


しかも意外と濃厚だったり…。

女ってこんなの映画で平気に見れんのかよ…。わけわかんねぇ。気まずくねぇの?

隣のマリナは、相変わらず映画に集中。

どうやら、気まずいのはオレだけのようだ。


「……なぁ」


くいくいと握った手を引くと、やっと面倒臭そうにこっちを向いたが


「ちょっと…今、いい所なんだから」


すぐにまたそらされた…。

てか、いい所ってなんだよ。
これがいい所?
どういう意味で?
ああ…女ってわかんねぇ…。

それよりも、マリナの素っ気ない態度がムカつく。

だから、そっと顔を近付け、無防備な耳にふっと息を吹きかけてみた。


「…ひゃっ!」


途端、大きく震えた体にスクリーンの明かりに照らされた赤い顔。


「な、何するの…!悪戯しないでよ」


小さな声で怒られたオレは悪びれることもなく


「別に、悪戯じゃねぇよ。さっきまでシカトしてたんだから、このくらい気にすんなよ」

「シカトって……もう、シン可愛い」

「は?」

「でも、ごめんね。映画終わるまで我慢して?寝ててもいいから」


愛でられた意味がわからない。

可愛い、なんて言われて挙げ句の果てには子供扱い。
そんなオレを余所に再びスクリーンに向けられた視線。

とうとうオレの中の何かが外れ、舌をマリナの耳に這わせた。


「シン…!」


逃げようとした体を引き寄せ、そっと耳元で


「こんな風にキスして欲しいって?」

「…っ…ちが…!」


必死に首を振るマリナには生憎、ここは薄暗くて人が少ない映画館。

オレ達の異変に気付く客なんているはずもなく


「……んっ」


さっき見たみたいな深いキスをすると、恥ずかしいのか小さく抵抗する体。

そんな抵抗も受け止め、角度を変えて深く、あんな映画なんかと比べものにならないくらい甘いキスを与える。

オレ達が唇を離したのは、スクリーンにエンドロールが流れ始めた頃だった。


「シンのバカ」


映画館を出ると、当たり前にマリナの機嫌はそっぽを向いていた。


「……悪かった」

「私、全然最後見てないんだから」

「だから悪かったって」

「どうしてシンが怒るの」

「怒ってねぇよ。謝ってる」

「じゃ、何でそんな無愛想なの」

「元々こんな顔だから」


少し険悪な雰囲気になり、オレはため息をついた。


「また連れてってやるから。今日は……ごめん」

「……」

「今度は、お前を後悔させないから。オレを信じて」

「シン…。うん、ごめんね。私もシンを退屈にさせてた。だから、今度は映画じゃない所行こうね!」


すっかり機嫌を直したマリナ。

理由はどうあれ、オレもそう思ってたんだから嘘のつもりはない。

今日の映画も満更無駄ではなかったのかもしれない。

最後のセリフは、映画の受け売りなことはここだけの話。





remake movie
映画より甘い恋愛




            fin,

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