短編夢1

□兄なんて
1ページ/1ページ



―うぇーん…とーま、しんがぁ…





兄なんて






「トーマ、シンが…!」


あの頃の幼稚な姿と重なる。

見た目は完全に女になってしまったが、中身はまだまだ子供で兄としては目が離せない。


「どうした?また玩具壊されたの?」

「もう…それは子供の時の話でしょ!」


ぷうっと頬を膨らませるマリナは、本当に子供の頃そのもの。

そんな微笑ましい姿に母性本能ならぬ兄性本能が擽ったい。


「はいはい。で、どうしたんだ?」

「シンが私のこと、全く色気ないって言うの!」

「………」

それはあまりにも女らしい悩みで、俺の頭が一瞬停止した。


「ねぇ…私って本当に色気ない?」

「色気ね……ないことはないんじゃない?俺にしてみば、マリナは可愛い妹だけどね」

「……」


当たり前に不満そうなマリナ。

色気、なんて…
もうそんなこと気にするようになったのか…

いや、マリナも19だし当たり前か

それとも


「もしかして、好きな男でも出来た?」

「え…っ」


頬を赤らめて、全く嫌になるほど分かり易いんだから。


「ト、トーマは……どんな女の人に色気感じる?」

「俺?俺のは参考になんないよ」

「い、いいの!」


何でやけになっているのか分からないまま、とりあえず腕を組んで考えてみる。


「んー…思いつかないな」


思いつくはずない。

考えたって、頭に浮かぶのは決まって


「けど、マリナはそのままでいいんじゃない?マリナの好きな奴が色気が好きとは限らないしさ」

「……」


仏頂面のマリナが可愛くて、よしよしと頭を撫でる。


「何でそんな顔すんの。可愛い顔が台無しだぞ」

「…トーマは、昔からそればっか…」


子供扱いを不満がるのは、シンもマリナも同じ。

それでも俺は、兄というこの立場を変えない。変えられない。

まるで自分の枷にするように


「好きな奴出来たなら応援するけど、いきなり兄離れってのも寂しいな」


だって、それがずっと一緒にいられる枷だから


「…トーマのバカ…」

「うん。俺は、兄バカだ」


泣きそうにするマリナ。

お前の好きな男なんて、どんな奴なんだろうね。
いつか、結婚もするんだろうね。

そうしたら、俺はどうなるのかな?
それでもお前の隣にいるのかな?

兄、って言ってさ





兄なんて
ただの言い訳




            fin,

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ