短編夢1

□いっしょにおふろ
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「ねぇ、トーマ…」





いっしょにおふろ






マリナがそんなことを言い出したのは、夕飯も済んで俺が台所に立っていた時だった。


「え…?」


聞き間違いであって欲しいと、手を止めてマリナを見つめると頬を赤くしていた。


「だ、から…いっしょに…入りたい、です…」

「何に?」

「……」


――お風呂

なんて、聞かなきゃよかったのかもしれない。

あまりの衝撃に洗っていた皿を取りこぼしそうになった。


「どうしたの、急に」

「きゅ、急じゃないよ…前から入ろうって言ってたじゃん…」

「いや…あれは冗談でしょ」

「……」


あーあ…そんなに頬を膨らませて見つめてきて

睨んでいるつもりなのかね…


「…冗談なんかじゃないよ。本当に一緒に入りたいの」

「なんでまた…」


マリナの表情を伺いながら、洗い物の手を再開させる。


「昔思い出して、また一緒に入りたいなって思って!」

「昔は入ったけど…今は違うでしょ。あの頃と違って俺はもう男だし、マリナも一丁前の女なんだよ?嫌じゃないの?」

「嫌じゃないよ」


トーマだから

きっと、俺が"トーマ"である以上、考える時間もなくそう言い続けるんだろうね。

マリナの目には、6歳のお兄ちゃんの俺なんかじゃなくて、ちゃんと20歳の男の俺が映っているのかな?


「…やっぱり、トーマは嫌?」


そんな顔で分かりきったことを聞くのは反則だと思う。


「嫌なわけないでしょ。あのね…男にとったら、すごく好都合なことなんだよ。安易な気持ちでいたら、マリナを傷付けるかもしれない。…それでも、一緒に入りたいって言える?」


だからこれは、俺からの最後の警告。

俺もつくづくバカだと思う。

答えを知っててこんなことを聞くなんて


「うん」





























「ま、待って…!」


そんなこんなで、俺も男なわけで、今2人で脱衣所に至る。

例え俺が男でも、男である前にマリナの兄であり彼氏だから、傷付けるようなことは決してしないと心に決めたが


「…服は、自分で脱ぐから後ろ、向いてて…」


可愛いマリナを前にしたら、その決意が今にも揺らぎそうだ。


「自分から入りたいなんて言っておきながら恥ずかしい?」

「…入りたいけどね…その…裸はまだ、恥ずかしいの…」

「そんなの今更じゃない?」


恥ずかしがるマリナの服に手を伸ばすと、両手で制されてしまった。


「……っ」

「ごめん。わかった。俺、先に入ってるから後からおいで」

「うん…ありがとう」


頭を撫でて、先に熱気が漂う浴室に入った。

体にお湯をかけてしばらく湯船に浸かっていると、バスタオルに身を包んだマリナが静かに入ってきた。


「もしかして、そのまま入るとか言わないよね」

「…このまま、だけど…」


どこを見ていいのか分からないのか、目を泳がせるマリナが益々愛しくて、俺は湯船から上がりバスタオルごと体を抱きしめた。


「トーマ…!」

「体、先洗うだろ?洗ってやるよ」

「えぇ!で、出来るよ!?」

「折角一緒に入ったしさ。マリナが嫌じゃなかったら洗いたいんだけど」


浴室の熱気で赤くなった顔を覗き込むと、上目使いに見つめられ…いや、睨まれたのだろう。


「…そんな風に言うのずるいよ…嫌なわけないって知ってるくせに…」

「そう?俺は昔からずるい男だよ」


おいで、と鏡の前に促すと素直にそこに背を向けて座った。

そっと白いタオルを剥がすと、包まれていた中身はもっと白かった。

曇った鏡で表情は分からないが、きっとさっきよりも真っ赤になっているんだろうな。


「お湯かけるよ」

「う、うん…」


シャワーの温度を確認しながら体に、頭にかけてあげる。

そして、よく浸透した髪にシャンプーをつけて洗い始めると、さっきまで緊張していた体から力が抜けた。


「どう?」

「…気持ちいー…トーマ、洗うの上手だよね」

「昔はよく、マリナとシンを洗ったからな。シンは勿論嫌がったけど、マリナはいつも気持ちよさそうにしてくれたもんな」

「うん!私、トーマに洗って貰うの大好きだったもん!」


昔、シャンプーが怖くて泣いていたマリナを励ましながら頭を洗ってあげたことがあった。

まさか、こんな歳になってもこんなことが出来るなんて思っても見なかった。


「今、洗われるのは?」


マリナを前にすると、もっと可愛い顔が見たくて柄にもなく意地悪を言ってしまう俺。

そうしたら、またお前は言うのかな?

ずるい、って――


「う、嬉しいよ…トーマになら、何されても嬉しいし…」

「……っ」


ずるい、なんて

この状況でそれを言うマリナの方がよっぽどずるいよ。


「マリナ、俺をどうしたいの」

「え………んぅ」


顔を前に回り込ませて、耐え切れずにキスをした。

すると、俺の中の何かが切れたようにくるりとマリナの体をこちらに向けると、その泡のついた体を素手で洗い始めた。

明らかにあの頃と違う体つきの、まずは2つの白い山から


「…あっ…トーマ…やぁ…」


恥ずかしさから小さく抵抗しながらも、気持ちいいのが体に表れている。


「…嫌じゃなかったら、このまま続けるよ?」


そう言いながら、手を腹部へ滑らせる。


「…トーマ、ずるい」


ずるいのは、お互い様だと思うんだ。





いっしょにおふろ




            fin,

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