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□召しませ、僕の愛。
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やがてお湯も沸き、忍足はコンロの火を止め、ティーポットにお湯を注ぐ。そうしてトレイに紅茶を載せてリビングに運ぼうとする時も日吉は離れようとはしなかった。

「ひーよ、危ないから離して」
「……」

後ろでぶんぶんと首を横に振る日吉に溜め息を吐き、それならばちゃんとついて来るように彼に言う。
ゆっくりと歩みを進め、なんとかテーブルにトレイを置く。ソファに座っても、日吉は忍足の腕にしがみついたままで……いや、嬉しいけど、ちょっと困る。
ちらりと日吉の方を見ると、まだむすっとした顔は直らず、何かしたかなと考えつつ紅茶を啜る。

そうしていると、日吉はズボンのポケットをがさごそと漁り、中から銀紙に包まれたハート型のお菓子‥らしい物を取り出した。
そして、忍足の腕をぐいっと引っ張って、こちらに注意を引き付ける。

「な、何?」
「……ん」
「え? くれるん?」

差し出されたハートを忍足はそっと手にする。匂いを嗅いでみると、甘くて苦いチョコレートの香りがして……銀紙を剥いてみれば、つやつやと光るチョコレート
の表面が出て来た。

「食べて良えの?」

日吉の顔がこくりと頷く。

まさかこれが誕生日プレゼントとか言うんじゃないよな……でも、彼なら有り得るかも知れない。もしそうだとしたら、何と寂しい誕生日だろうと思いつつ、ありがとうと礼を言ってから、チョコを口にする。


こくり、と忍足の喉元が動いたのを確かめると、日吉はひそかに妖しい笑みを浮かべた……。




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