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□召しませ、僕の愛。
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俺の誕生日なんか君は絶対祝ってくれないと思ったから
ちょっとした嘘を吐いた
『あー‥誕生日は誰と過ごそうかなぁ。マネージャーでも良えけど、ここはいっそ高等部か大学のお姉様と楽しむってのも良えな……な、日吉はどう思う?』
『知るか』
はしゃいだ声で君に言ってみれば、君はいつもの冷たい反応を見せて。
その時は、それで終わったが……まさかこんなことになるなんて――
◇◆◇◆
10月15日未明。
忍足の家にいきなり日吉が上がり込んで来た。
「日吉‥?」
「……」
むっすりとした顔でずかずかと部屋に入る日吉に忍足はどうしたんだと問い掛ける。
「珍しいなぁ、こんな夜遅くに」
「……」
「ちゃんと親御さんに泊まるって言って来たか?」
「……」
まるで反応なし。
リビングのソファに座り、お気に入りのクッションを抱くと、日吉はだんまりを決め込む。
親と喧嘩でもしたのだろうか。いや、彼に限ってそれはない……とりあえずお茶でも淹れようと、忍足はキッチンに立つ。
すると、日吉は立ち上がり、ティーカップや紅茶の缶を出している忍足の背へぎゅっと抱きついて来た。
「ちょっ‥日吉っ!?」
「……」
驚きのあまり、忍足は体をびくんっと強張せる。しかし、日吉はやはり何も喋ろうとしない。
「どないしてん」
「……」
「日吉さーん?」
「……」
これなら、抵抗された方がマシだ。
忍足はやれやれと溜め息を吐き、まるで子どもに甘えられた母親になった気分でお茶の準備を続ける。
「‥今日の日吉くんは随分甘えたさんやねぇ」
「……」
「赤ちゃんの若くんには紅茶よりココアの方が良えかなあ」
そう言って後ろを振り向けば、日吉はふるふると首を横に振って……本当に小さい子みたいだと、忍足はくすりと微笑んだ。