長曽我部

□数年越しのラブレター
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卒業式。



泣かない、というか泣けない。

そんな柄でもないし、とくに泣くような感動も無い。

俺は地元におさまることになり、ダチもわりと近場に残る。
つまり別れもそれほどなかった。


むしろ笑った。

豪快に、楽しい高校生活だったと笑った。

世話になったせんせー等に「元気でなァ!」と手を振り会いに行く。普段は俺達を邪険にしていた奴らも、今回ばかりは笑顔で祝ってくれた。


最後のホームルーム。
コワモテの担任が教卓に立つ。

俺達を一人一人見、そしてゆっくりと口を開く。


静まる教室の中

凛として言い放った。




「これから先、お前達は今まで以上にいろんな事を体験するだろう。

辛い日、悲しい日、思わぬことで胸を痛める日もあるだろう…
だけど、それでもお前達は笑っていなさい。それでも輝いていなさい」



担任の紡ぐ言葉に教室が違った静まりを見せる。
長話が嫌いだ、そう言って全校集会なんかをサボるやつらもじっと担任の言葉を待っていた。


ああ、本当に卒業なんだな


そんなこと頭ではわかっていた。
けれど、違うところで胸に染み渡る。


『別れ』の文字が過ぎった。




「社会に出て、もうダメだと思ったらしばらく休め。
それでも立ち直れなかったら
先生を思い出して連絡してくれ」



担任がそう言って笑った。
彼が笑うのはひどく珍しく、とても貴重なもので。

クラスのあちこちからが鼻をすする音が響き始める。


俺のダチも泣いていた。声を殺して、静かに、静かに泣いていた。


俺はじっと机を見つめる。

涙は、こぼれなかった。



胸の奥がチリチリと音を立てているようで、ムズかゆさとほんの少しだけ息苦しさを覚えた。





「七海」




ふと、頭に浮かんだ女子生徒の名前。


じわりと胸に広がって、溶けていく。


ホームルームが終わった。


俺は野郎共と別れ、彼女を探す。


教室、廊下、図書室に美術室。

いそうなところは手当たり次第に探してみる。
小走りだったのが、いつのまにか強く地面を蹴っている自分がいて。



見つけなければ。



会って、言わなければいけないことがある。





「七海…っ」




俺は足を止めることなく片っ端から当たっていく。

もしかすると帰ったのかもしれない。けど、足は止めなかった。


そうして、もう探すところもほとんど無くなってきた時のことだ。




立ち入り禁止とされている屋上に、人の気配を感じた。

まさか


俺はチェーンを跨ぎそのまま扉の前に立つ。
そしてゆっくりとドアを開いた。




ああ、見つけた。




俺はフェンスにもたれ掛かる彼女のもとに駆け寄り、自分の身体で包み込んだ。

一瞬彼女の身体が跳ねたが、すぐに力が抜けるのがわかる。




「卒業、おめでとう」


「おめでと」




交わした言葉は少なく、しばらくそのまま抱きしめる。



不思議なもので
積もる程あった言いたいことが、雪解けのように形を失っていく。


無言のひととき。
でもそれは、苦じゃなくて。





少しだけ腕に込める力を強める。体温が伝わり、側にいる安心感を得た。



「七海」


「ん」


「3年間、頑張ったな」


「…先生みたい」


「うるせーやい」


「……」



ありがとう。


七海が笑んだ。顔は見えないけど、笑っているとわかった。



「俺こそ」


ありがとう。


側にいてくれて、支えてくれて。



それから



「またな」




式を終えて、担任の話を聞いて、ダチの泣き顔見て、七海を抱きしめて。




「あ、やべ」



今さら、少し泣けてきた。



「うわ、元親泣いてる!」


「だ、誰が泣くかッ!!」


「鼻声だ〜」


「黙れっ!ああもう、こっち向け馬鹿!!」



そう言いながら振り向く前に
顔をこちらから寄せて近づける。



なんだよ、アンタもじゃねェか。



噛み付くようにして貪り、ちらちらと落ちる涙を唇ですくいとる。


柔らかくて、少ししょっぱい。



ほんのわずか
ぬくもりを持った風が横切る。





そして俺達は、卒業した。

























「元親ぁああ!!」


「う、わ!?急になんだよ!」


「これ!高校の時の卒業アルバム!!」


「お、懐かしいなァ」


「お、じゃないわ!!見なさいこれ、アンタこの写真どーいうこと!?」


「え、俺と七海のイチャついて…」


「うわああ!!そ、それは見たらわかるっつーの!何でこれが卒業アルバムに載ってんのかってことよ!!」


「載ってるっても、こんな小せェの誰も気づかねェって」


「気づく気づかないの問題じゃないわ!
いくら『写真の寄せ集めで校旗を作ろう!』ってページだからって、こんな写真出す馬鹿がいるか馬鹿ッ!!」


「いてっ、悪かったって…」


「気持ちがこもってない!反省してないだろ馬鹿ちか!」


「いや本当に悪かったと思ってる」


「…うわああ、なんで今まで気づかなかったんだろう私……」


「そりゃ俺が、わかんねェよう端に配置するよう頼んだから」


「っ!!!!こんの馬鹿ちか!!!!!!」




アルバムを机に叩き置き、お互い必死の追いかけっこが始まった。

アルバムが風に吹かれてペラリとめくれる。



そこには小さくメッセージが書かれていた。

少し薄くなりつつある、荒々しい字。





『アンタを守れる大人になって、迎えにいくから』




名前は無い。ただ一言、それだけ。



そしてその下には、真新しい字が並んでいて。


丁寧に書かれたその文字の存在は、



数年後



自分達の子供によって見つけられることとなる。








『待ちくたびれた。


寂しかった。辛かった。苦しかった。





でも






結婚せずに、待っててよかった』





END

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名言サイトさまから台詞を
お借りしました


卒業式終わりました、早かったなあ3年間。

来年も卒業ネタで何か書きたいです^^

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