長曽我部

□きみはいま
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大学、午後のこと。
俺は友人と課題をやっていた。


同じ学部のツレとグダグダと作業をする。

今日中に仕上げなければならないそれに、ついついため息をついてしまう。



バイト行きてェな、つーか七海に会いたい。


今日は彼女とシフトが合う日。
しばらく忙しかったものだから、まともに顔も合わせていない。


たまにメールはする。
しかし、返事がないことが多かった。


用件の無いメールには反応が見られない。あちらはあちらで課題が山積みなんだと。

けれど、そんな中で返事が返ってきたりなんかすると、
嬉しかったりする。



とにかく、せっかく会えるチャンスを逃したわけ。

俺はズラリと並ぶ文字の羅列を見遣り、またため息を吐いた。



「あー…、暇。」


「元親、暇があるなら手動かしてって」


「やる気でねー、だりィ」


「ああもう、こんなんじゃ片付かないよ?」


「Ha!どーした、らしくねェな」



友人らの言葉に耳を貸しながら、適当に返事をする。


なんか面白いことねェかなぁ。

なんて、完全に戦意(作業意欲)喪失した俺は机に突っ伏した。


つられたのか、他の連中もだらけ始める。

こりゃ駄目だな、ウダーと身体を伸ばすと友人の1人が口を開いた。



「あ、そういえば俺の友人の面白い話あるんだけど。」


聞きたい?首を傾けていう友人に、みんなの注目が集まる。

どうやらここにいるやつら、暇らしい。



「んー、なによ」


「あのね。
同じサークルの子で、失恋した女の子がいたんだって。

その子はスッゴく落ち込んじゃってて、サークルにも顔出さなくなって。
俺の友達…まあAとするわ。
Aは心配になって、公園に呼び出したそうなんだ。」


へぇ。と友人らが話に聴き入る。
俺もそのうちの一人で、ゆっくりと顔を上げた。



「で、呼び出して話を聞いてみるとさ。
彼氏に理由も何も無しに別れを告げられたっていうの。
その娘、相当きてたんだろうね。Aの前で泣き崩れたんだって。」


「そいつは…ひでェな。」


なんだか他人事に思えない。
つい自分と重ねて考えてしまうのは仕方ないだろう。

あの時、自分は彼女になんと言っただろう。

もっと良いことを言えたらな、
なんて考えていたのは覚えている。


デジャヴ…とか思いながら、また耳を傾ける。



「でさ、Aはこんなふうにキョトン顔でその娘を見据えてさ。ね、なんて言ったと思う?」


「わかるか、つーか焦らすなよ」


「あはは、ゴメンって!

それがよ


『失恋はウ〇コだ。

今のアンタはウン〇を流さずじっと見つめてるのと同じことだぞ。』


っくく…、だからさっさと流せよ!……ってさ。」



ブフッと一斉に周りが吹き出す。
俺も思わず喉が鳴った。



「はははっ!!な、なんじゃそりゃ!」


「おもしれぇこと言うもんだな、おめェの友達はよ」


「あはは、だろ?でね、実はこの話、その女の子から直接聞いた話なんだ。」


え?と声が漏れる。



彼女曰く、『それ聞いてなんだか可笑しくって。私、なんで流せなかったんだろーって。』


彼のおかげで、しっかり流せました!



「…なんて、真剣な顔で言うんだ!その子、なかなか可愛い子だったから、またなんか…ね。」


くつくつと笑いながら語る友人を横目に、なんとなく七海を思い出す。


彼女にこの話をしたら、何て言うんだろう



「まあ嫌いじゃないぜ、そういうStoryはよ。」


「だなー」


「んで後日談、二人は付き合いました〜!!ぱちぱちー、拍手!」


「なっ!?マジかよ!」


「マジなんだなこれが。」


いやー、恋っていいね!


友人らはニヤニヤしながら「俺も恋してー」とか言い始める。


恋…ね。

俺はパカリと携帯を開いた。



カチカチ


作った文章を見遣り、なんとなくはばかられる指を送信ボタンに寄せる。




ピピッ


ビクリと手が震える。



『メール受信***結村 七海』



携帯画面にそう表示されるそれに、目を見開く。

俺は未送信Boxに作ったメールを放り込み、彼女から届いたメールを見る。



『今、何してるの』


絵文字のない、素っ気ない一文。
しかし、彼女からそんなメールが来るなんてひどく珍しい。


少しは気にしてくれてんだなあ

そう思うと
なんだかむず痒く、なんとも言えない嬉しさが込み上げる。


それからすぐに「ぼーっとしてる」って返した。



アンタからのメール待ってたなんて、言えるか。



俺は静かに未送信Boxのメールを削除した。












単純な言葉でしか

伝えられない。





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