長曽我部

□言葉逢わせ
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大学の教授が、こんな話をしていた。


失恋した女の子が一人、つらかったので公園で泣いていました。

泣いている理由を一人の哲学者が知ったのですが、
なぐさめることはせずに笑って言いました。



「君は自分を愛してくれない人を一人失っただけにすぎない。

しかし、彼は自分を愛してくれる人を失ったのだ。彼の損失は君よりずっと大きい。

君は何を苦しまねばならないだろうか? 
本当につらいのは彼の方なのだよ」




俺はほぅと関心した。


あのとき、七海にそういったことが言えたなら…なんて考えてしまう。

といっても
俺にはそんな哲学者みたいなこと言える頭なんて無いし、
果たして彼女はどう考えるのだろうか。

それをさらに上回る七海節を炸裂されそうな気がする。



この話の少女が七海ならば、哲学者もお手上げなのでは?


なんてことを考えて一人クスッと笑う自分は怪しいに違いない。


さて、そんなこんなでかれこれ1時間。

待ち合わせから経過した時間だ。



「忘れてんのかな…」



初デート。
俺は携帯をパカパカと開け閉めしながら例の公園で待っていた。

彼女に電話しようかどうかと悩んでいる最中、遠くから自分の名前を呼ぶ声に気がついた。



「はぁはぁ…っけほ、ごめ…待たせた…」


「んなこと気にすんなって…つーか大丈夫か?」



むせる彼女の背中をさすりながらベンチに座らせる。

彼女は息を整えながら、再び謝った。



「ほ、本当にごめん…少し、悩んでて…」


「ん?なにを悩んでたんだ?」


「……いや、何でもない」



ふい、と顔を背けられる。
どこかモゾモゾとしている七海を見遣ると、あれ?と声が漏れた。


スカート姿の彼女。そういえば初めてみたなあ、なんて。


俺はなんなく悟り、いじらしい彼女を胸に抱き込んだ。

何となしに腕を回してくれる彼女がまた、愛おしい。




「待たせて…ごめんなさい」


「構わねェって。」



次は俺が遅刻するから、覚悟しとけ?


そういって耳にキスを落とすと、今まで見たこともないような驚いた顔をし
真っ赤に頬が染まった。



「っ、ば、馬鹿ちか…!」



何この可愛らしい生き物は。←




俺はだいぶ落ち着いてきた彼女を連れ、目的の場所に向かった。

さりげなく手を繋ぎつつ、歩き慣れた場所をぶらぶらしてみる。


歩きながら
そろそろバレンタインだね、とか
新しい商品の試食したんだけど…とか

たわいもない話、でも一つ一つが幸せで。



そうして彼女にプレゼントを買ったりなんかしながら、
最後に俺達の仕事場に足を運んだ。



「いらっしゃいませー…て、鬼の旦那と七海ちゃん!?」


出迎えてくれたのは店長。

ちなみに鬼の旦那ってのは俺のことだ。



「ふぅん♪お休みデートってわけだね、お熱いことで」


「店長、からかわないでくれますか…」



店長の茶化しにどこか頬の赤い彼女。
俺はクイッと七海の手を握り引いて、奥のテーブルに座った。


可愛らしい七海を見せるのが、店長にでさえ勿体ない気がした自分は

本当に末期だと思う。



自身に飽きれ、内心でため息をついていると彼女は不思議そうにこちらを見る。

何でもないぜ、というと
そう。と返ってきた。



「そういえば、今日は馴染みの店巡りデートだね」


「あ、もしかして嫌だったか?」


「いやいや、そうじゃなくて!…なんか元親のことだから、無理に張り切っちゃうんじゃないかなって」


思ってたんだけど。

と言われ、そんな風に思われていたとは…と苦笑した。



「遊園地とか、水族館とか。そんなの誰と行ったって楽しいだろ?」


駅前の商店街で幸せが湧いてくるのは、きっと七海とだけだなって。


なんとなく照れてしまい、おどけながら言う。

すると、いつもなら返ってくる彼女の声がない。


違和感を感じ、パッと見やると

先ほどとは比べものにならない程、真っ赤になった七海がいて。

口をぱくぱくとさせていた。


俺が「金魚みてぇだなあ」とか考えてると、


七海は机に突っ伏しながら
ゴニョゴニョとものを言った。




「……卑怯だ…っ」



「何が?」と俺が聞き返すと、彼女は「黙れ」と呟いた。











難しい言葉より

素直な心を





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